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断罪令嬢のガチャは一国を買い叩く 〜過保護なシステム様にSSR資源を確定投入されるので、平和的に国を滅ぼします〜  作者: 霧ノシキ


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第23話:深淵を覆う黒い霧と、四つの絶望

【楽園の終焉を告げるノイズ】

「プシュッ……シュワァァァッ!」

 白亜の壁に囲まれた豪華な食堂に、心地よい炭酸の弾ける音が響き渡ります。  アリシアから与えられたばかりの『黒い刺激水』を手に、騎士たちが至福の表情を浮かべていました。

「はぁ……たまらん。この喉を焼くような感覚、もはやこれなしの人生など考えられんぞ」 「この新しい服も最高だ。軽くて、まるでもう一枚の皮膚のように馴染んでいる。これならどんな魔物にも遅れは取らん」

 ポテトチップスのコンソメ味と、喉を刺激する冷たい飲み物。  誰もがこの平和が永遠に続くものと信じて疑わなかった、その時です。

「ピィィィィ――ッ! ガガッ、ガガガガッ!!」

 突如として、楽園のあちこちに設置された石版から、聞いたこともないような耳障りな音が鳴り響きました。

「な、なんだ!? この音は! 石版が真っ暗になって、変な模様が走ってるぞ!」

 カイルが飛び起き、管理用の大きな石版を覗き込みますが、そこには砂嵐のようなノイズが激しく踊るばかりでした。

「ルル! これ、どうなってるんだ!? お嬢様のガチャが壊れたのか?」

 銀髪の看板娘、ルルが淡々と石版に手を触れ、目を細めました。

「魔力の流れに、とんでもない異常が発生しましたです。感知した魔力の量は、王国の魔導師が千人集まってもありえないほどの量になりましたです。これは、この世の終わりを告げる前触れなのです」

 ルルの論理的で静かな声が、食堂にいた騎士たちの顔から血の気を引かせました。楽しかった炭酸の泡が、まるで不吉な予兆のようにパチンと消え、周囲は気味の悪い静寂に包まれていきました。

【崩壊する世界の理】

「落ち着きなさい、カイル。みっともないですわよ」

 応接室のソファで、アリシアは最後の一口となった刺激水を優雅に喉に流し込みました。  彼女の瞳は、ノイズまみれの石版の奥にある「問題の正体」を正確に見抜いていた。

『――警告。システムプロトコルに重大な違反を確認。シナリオロックが強制解除されました。未定義の存在が世界へ流入しています』

 ジェネシスの石版が、聞き慣れない言葉を無機質に吐き出す。

「お、お嬢様! システムとか、なんとかって石版が言ってますけど、何が起きてるんですか!?」

「あら、簡単なことですわ。あのピンク色の髪をした娘……セラフィナの心が壊れて、この世界の理を無理やり壊してしまったのでしょうね」

 アリシアは冷静に、そして冷ややかに言葉を続けました。

「これは単なる魔物の襲来ではありませんわ。世界そのものが壊れ始め、本来出会うはずのない絶望を、無理やりこの場所に引き摺り込んでいるのです。いわば、世界の壊死ですわね」

 世界そのものが壊れ始めた。  単なる敵の襲撃ではない、存在の根本を揺るがすような質の違う恐怖が、カイルの背中を凍らせました。

【絶望の格付け】

 アリシアは立ち上がり、ガチャで手に入れたばかりの『タクティカル・スマートグラス』をその目に装着しました。  レンズ越しに映るのは、アビスの入り口を目指し進軍する、不気味な黒い霧と、その奥に潜む「ありえない軍勢」のデータでした。

「ルル。ドローンの様子を教えなさい」

「わかりましたです。霧の向こうはるか先に、かつてない軍勢が集結し進軍中です。リスクの検証を開始しますです」

 ルルの淡々とした声が、絶望をランク別に読み上げていきます。

「まず雑兵、ゴブリン。数は1,000匹程。カイル様が今の服の補助で、なんとか戦えるレベルになりますです。……次に中堅、オーガ。数は100匹程。騎士様の皆様が数人で連携して、ようやく一匹倒せる脅威度なのです。これらに防具を突き抜ける力が付与されましたです」

「……っ、そんなに強いのかよ!」

「続きを」

「はい。上級、デーモン。レオナード様なら倒せますが、普通の騎士では即座に死を覚悟することになりましたです。これらには心を汚す呪いが付いていますですよです」

 そして、ルルの声が一層低くなりました。

「最後に、貴族。四つの巨大な魔力。……別次元の強さになりますです。これらがここへ来れば、今の楽園の壁では、守り切ることは不可能なのです」

 石版に表示された敵のリストには、本来この世界に現れるはずのない、伝説級の「四魔貴族」の影が蠢いていました。彼らが一歩進むごとに、アビスの岩肌が腐り、不浄な闇へと変わっていくのがスマートグラス越しに伝わってきた。

【アリシアの決断と最高警戒レベル】

 室内に、重苦しい静寂が広がります。  だが、アリシアは空になったグラスをそっとテーブルに置くと、不敵に微笑みました。

「……あら。ゴミが勝手に入ってくるなら、お掃除するまでですわ。不作法な客には、それ相応の最高のおもてなしを差し上げなくてはなりませんもの」

「お、お嬢様……。この状況で、まだお掃除とか言えるんですか!?」

 カイルの叫びに、レオナードが重厚な足取りで進み出ました。その隣では、荷物の管理を任されているセリアも厳しい表情をしています。

「アリシア様。奴らを迎え撃つには、今の戦力では足りません。騎士たちの服の力を限界まで引き出し、守りの壁を今の十倍に強める必要があります」

「同意しますわ」と、セリアが続けます。 「今ある全ての蓄えを使い、壁の仕組みを最新のものに作り直さなければ、数分も持ちません」

「ふふ、わかっていますわ。……ジェネシス、聞きなさい」

 アリシアが石版の画面を強く叩きます。その瞳には、絶望など微塵もなく、むしろ不測の事態を心から楽しんでいるかのような、残酷なまでの優雅さが宿っていました。

「全拠点に告げます。最高警戒レベル――『デッド・クリーン・モード』を発令。わたくしの楽園を汚す不浄なゴミどもを、一匹残らず掃き出しなさい。……お掃除の始まりですわ!」

 楽園の各所に配置された赤い警報の光が一斉に旋回し、不気味なほどの静寂が広がっていたアビスに、戦いの幕開けを告げる地鳴りが響き渡りました。


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