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顔面S級冷酷無双ヤンデレ王子と転生令嬢  作者: はるさんた


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第六十六話:隣国の来訪者と、揺るがない熱情



軍事大国エストリア帝国から、親善大使として皇太子ゼノスとその妹である第一王女カミラが来訪した。王宮の謁見の間は、他国からの賓客を迎え入れるための、どこか張り詰めた空気に包まれていた。


現れたゼノス皇太子は、軍事国家の象徴のような、研ぎ澄まされた剣を思わせる鋭い美貌の持ち主だった。氷晶のような薄い青色の瞳に、プラチナブロンドの髪を短く刈り込み、一切の無駄を排した軍服を完璧に着こなしている。その立ち居振る舞いには、他者を支配することに慣れた強者の風格が漂っていた。


一方、妹のカミラ王女は、兄とは対照的な「毒を孕んだ大輪の花」であった。燃えるような真紅の髪を縦ロールに巻き、挑発的なまでの美貌を惜しげもなく振りまいている。彼女の瞳は獲物を定める肉食獣のように爛々と輝き、その美しさは見る者を圧倒する威圧感を持っていた。


しかし、その二人の「美」をもってしても、祭壇の玉座に座るアレスの神々しさを揺るがすことはできなかった。


「お初にお目にかかります、アレス殿下。……まあ、なんてこと。噂以上の、いえ、神話の具現のような美しさですわ」


カミラは挨拶もそこそこに、熱烈な視線をアレスへと固定した。彼女は自国の騎士たちをその美貌で跪かせてきた誇り高い王女だったが、アレスの顔面S級の破壊力の前に、一瞬で心を奪われてしまったのだ。彼女にとって、アレスの放つ冷徹な色香は、これまでの人生で味わったことのない最高の劇薬だった。


カミラはルナの存在を透明な壁であるかのように無視し、アレスへと歩み寄る。


「殿下、是非とも本日は、私にエスコートをさせていただけませんか? 貴国と我が国の未来を、この手を取り合って語り合いたいのです」


その露骨な誘惑に、広間にいた貴族たちがざわめいた。ルナは隣で、心臓がチクリと痛むのを感じた。カミラの放つ圧倒的な「女」としての自信と、アレスに向けられる執着に近い視線。それは、平和な新婚生活に投げ込まれた、明確な敵意の礫だった。


(……アレスはどう反応するかしら。外交上、無下にはできないはずだけど)


ルナがわずかに眉を寄せ、不安げにアレスの横顔を盗み見たその時だった。


「…………」


アレスは、まるでそこに誰もいないかのように、虚空を見つめていた。正確には、カミラがどれほど色香を振りまいて微笑みかけようとも、彼の視界には「動く物体」としてすら認識されていないようだった。


「殿下……? お聞きになっていますか?」


カミラが業を煮やしてアレスの腕に触れようとした瞬間、アレスは電光石火の速さでその手を払い、代わりに隣に座るルナの腰を引き寄せた。


「……悪いが、僕は今、妻が少しだけ表情を曇らせた理由を解析するのに忙しいんだ。君が誰だか知らないが、僕の思考を邪魔しないでくれないか」


アレスの声は、心底から面倒そうな、そして氷のように冷ややかなものだった。彼はカミラを一瞥もせず、心配そうにルナの顔を覗き込んだ。


「ルナ、どうした? さっき、ほんの一瞬だけ、悲しそうな目をしなかったか。空調が寒いのか? それとも、この女の香水の匂いが鼻についたか。今すぐこの場を解散させてもいいんだぞ」


アレスのあまりの「ルナしか見えていない」発言に、広間は静まり返った。カミラ王女は屈辱に顔を赤くし、兄であるゼノス皇太子も、氷の瞳に一瞬の驚愕を浮かべた後、肩をすくめた。


ルナは、自分の嫉妬が馬鹿らしくなるのを通り越して、少しだけカミラに同情すら覚えた。アレスにとって、ルナ以外の女性はすべて「風景」か、あるいは「ルナとの時間を奪う敵」でしかなかったのだ。


「いいえ、アレス。大丈夫よ。カミラ王女殿下が、あなたと交流を深めたいと仰っているわ」


ルナが宥めるように言うと、アレスは不服そうに唇を尖らせた。


「君がそう言うなら、公務として言葉くらいは交わそう。だが、エスコートなど断る。僕の腕は、ルナを支えるためにしか存在していない。……おい、帝国皇太子。妹を連れて下がれ。彼女の視線は、僕の皮膚を不快にさせる」


アレスのヤンデレな執着は、結婚を経て「ルナ以外への絶対的な無関心」へと純化されていた。


ルナは、アレスの大きな手に包まれた自分の手を握り返した。嫉妬しかけた自分を恥じるほどに、この男の愛は重く、深く、そしてあまりにも一点に集中しすぎている。


「ふふ、ごめんなさい、アレス。私が少しだけ、意地悪な気持ちになっていただけなの」


「意地悪? ……そうか、君が僕に嫉妬してくれたのか? それは……素晴らしいな。もっとやってくれ。君の独占欲を僕にぶつけてくれるなら、僕は今この場で、他国の賓客などすべて追い出して、君の膝で懺悔してもいい」


アレスはルナの耳元で、甘く、それでいて狂気を孕んだ声で囁いた。 他国の美貌や誘惑など、アレスとルナの強固な絆の前には、風に舞う塵に等しかった。しかし、この騒動は、野心家であるゼノス皇太子の瞳に、別の火を灯すことになった。


「なるほど。あの王子の弱点は、徹底してあの王妃というわけか……」


ゼノスの冷ややかな青い視線が、幸せの中にいるルナへと向けられた。

嵐は、まだ吹き始めたばかりであった。


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