第六十三話:黄金の愛の巣と、甘美なる独占
王宮での華やかな披露宴を終え、二人はアレスが用意した新しい邸宅へと向かった。そこは王宮にほど近く、それでいて深い緑に囲まれた静謐な聖域。アレスがルナの自由と安全、そして自身の独占欲をすべて満たすために、ミリ単位までこだわり抜いて設計させた「愛の巣」である。
邸宅の扉が開くと、そこにはルナの好みに合わせた温かみのあるインテリアと、最新の魔導器具が完璧に配置されていた。
「……ようやく、僕たちだけの場所だ」
アレスは扉が閉まった瞬間に、後ろからルナを包み込むように抱きしめた。重厚な正装を脱ぎ捨て、薄手のシャツ一枚になった彼は、どこか幼い子供のような執着を見せてルナの肩に顔を埋める。
「アレス、そんなに強く抱きしめたら苦しいわ」
「嫌だ。今日は一日中、大勢の視線が君に触れていた。僕以外の人間が君を『王妃』と呼ぶたびに、君が遠くへ行ってしまったような気がして気が気じゃなかったんだ。今は、僕だけが君を呼べる時間にしたい」
アレスはルナを横抱きにすると、広々としたリビングのソファへと運んだ。彼はルナを膝の上に座らせ、まるで壊れ物を扱うような手つきで、彼女の髪を一房ずつ指に絡めていく。
「ルナ、この家はどうかな? 隣の棟には、君が望んでいた最高級の魔導実験室を作った。図書室には、世界中から集めた無属性魔導の文献も揃えてある。君が好きな研究を、誰にも邪魔されずに続けられるようにね」
「ありがとう、アレス。私のこと、本当によく分かってくれているのね」
「当たり前だ。君のすべてを知っているのは僕だけでいい。……そして、君の視界に入るものすべてが、僕が与えたものであってほしいんだ。君が手に取る本も、纏う服も、食べる食事も……すべて僕の愛の形だと思ってほしい」
アレスの瞳は、顔面S級の美貌も相まって、抗いがたい魔力のような甘さを放っていた。彼はルナの指先を一つずつ取り、丁寧に口づけを落としていく。それは、彼女の全身に自分の刻印を刻み込もうとするかのような、執拗で濃密な愛撫だった。
「ねえ、ルナ。少し甘えさせてもらってもいいかな? 今日は……王子としての僕はお休みだ。ただの、君に恋い焦がれている一人の男として、君に溺れたい」
アレスはそう囁くと、ルナの首筋に顔を寄せ、深くその香りを吸い込んだ。
「アレス……あなた、本当は寂しがり屋さんなのね」
「君限定だ。君がいない世界で、僕は一度死んだも同然だった。だから、もう一秒も無駄にしたくない」
アレスはルナを押し倒すのではなく、ただひたすらに彼女の温もりを確かめるように、何度も何度も優しく、しかし逃げ場のないほど深く唇を重ねた。甘い蜜が溶け合うような時間が、静かな部屋の中でゆったりと流れていく。
「明日からは、二人でゆっくり過ごそう。朝食は僕が用意する。君が起きるまで、僕は隣で君の寝顔を眺めているよ。それから、庭を散歩して、昼下がりには君の研究を手伝わせてほしい。……夜になれば、またこうして、僕だけのルナを堪能するんだ」
アレスの描く未来予想図には、ルナ以外の人間は介在していなかった。彼の世界は、今やルナを中心に完全に再構築されていたのだ。
「いいわよ、アレス。私も、あなたをたくさん甘やかしてあげる。……でも、たまにはお父さんたちにも会いに行きましょうね?」
「……ああ、わかっている。隣の家なんだから、すぐだろう? でも、週に数回にしてくれ。僕が君を独り占めできる時間を、これ以上削りたくないんだ」
少しだけ不満げに眉を寄せるアレスの姿に、ルナは思わず吹き出した。狂愛の王子は、今や世界で一番贅沢で、世界で一番可愛い「甘えん坊」になっていた。
深夜、新居の窓からは、幸せな灯りが漏れていた。 アレスは眠りについたルナを腕の中に閉じ込め、彼女の心臓の鼓動を感じながら、満足げに微笑んだ。 監禁という形での支配は終わった。しかし、アレスの「愛」という名の檻は、より深く、より甘く、ルナの人生すべてを永遠に包み込んでいくのである。




