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顔面S級冷酷無双ヤンデレ王子と転生令嬢  作者: はるさんた


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第五十二話:凍結地帯の邂逅と、円環収束の結界

ルナはついに、凍結地帯の境界線にたどり着いた。山脈の尾根を越えた先、視界に広がったのは、灰色と白の世界だった。地面は常に凍てつき、属性魔力を無効化する強力な冷気が吹き荒れている。この冷気は、通常の魔導士であれば、短時間で魔力中枢を凍結させ、命を奪う。


ルナは全身に鳥肌が立つのを感じた。彼女のローブは薄く、体力の消耗は激しい。しかし、彼女の心は、クリスを救うという使命感で研ぎ澄まされていた。


(アレスの追跡部隊は、もうすぐ来る。結界の構築は、一瞬で終わらせなければならない)


ルナは、手首のブレスレットの「安寧」信号が崩れないよう、極限まで精神を集中させた。彼女は冷気の中へと一歩踏み出した。肌を刺すような冷たさだったが、ルナの体内に流れる無属性魔力が、本能的に自己防衛の膜を形成した。


ルナは、凍結地帯の奥、流刑地となった廃領地を目指した。荒廃した石造りの建物群が見えてきたとき、ルナは建物の影に倒れている人影を見つけた。


「クリス様!」


ルナは駆け寄った。公爵家の嫡男であったクリス・ド・イシュタールは、痩せ衰え、ぼろぼろの服をまとい、顔色も唇も青白く、すでに意識を失っているようだった。彼の傍らには、彼の研究を記したであろう魔導書が、冷気に凍てついていた。


ルナはクリスの脈を確認した。かろうじて生きている。時間がない。


ルナは、自身の魔力を最大限に解放した。彼女の無属性魔力は、冷気の属性に縛られることなく、周囲の魔力場を再構築し始めた。


円環収束エクセル・コンバージェンス


ルナは、クリスとの研究で確立した理論を、この極限の地で実行した。無属性魔力を、熱を内包する幾何学的な結界へと精密に変換し、クリスを覆うように展開した。結界が完成した瞬間、冷気が遮断され、クリスの周囲の空気は、わずかだが温かいものに変わった。


「これで、あなたは生き延びられる」ルナは安堵の息を漏らした。


結界の構築は、ルナの魔力制御に大きな負担をかけた。ブレスレットの「安寧」信号は崩れなかったが、ルナの全身は汗と冷気で濡れ、力のほとんどを使い果たした。


その時、ルナは、自身の背後から迫る、巨大な魔力の波長を明確に感知した。


アレス率いる精鋭部隊は、飛空艇を山脈の裏側で降ろし、凍結地帯の入口まで徒歩で進んでいた。アレスは、ルナの魔力の残滓を辿りながら、ルナとの距離がゼロに近づいていることを確信していた。


そして、凍結地帯の境界線に到達した直後、アレスは、ルナが放った強大な無属性魔力の爆発的な波動を感知した。


「この波動…ルナ!」


アレスの顔が、歓喜と怒りの狂気に歪んだ。彼女は、彼が「異端」と断じた、あの公爵家の男の知識を、自分の命と引き換えに守るために使ったのだ。


「あの女は、僕を欺き、自分の魔力を使い果たした。僕の愛を完全に否定した…だが、それでいい」


アレスは部隊を制止した。


「待て。これ以上近づくな。ルナは今、疲弊している。彼女が最も満足し、油断した瞬間を狙う」


アレスは、一人で凍結地帯の中へと踏み込んだ。冷気が彼の肌を刺すが、アレスの強力な属性魔力は冷気を弾いた。彼の瞳は、ルナが構築した結界の輝きを捉えた。ルナがクリスを抱きかかえるようにして、結界の中に座り込んでいる。


アレスの心臓は、激しい嫉妬と、ルナへの切望で張り裂けそうだった。


(僕が、王位という全てを投げ打って追いかけてきたのに、君は、この男のために、全力を尽くしたのか)


アレスは、静かに、しかし絶対的な殺意を込めて、結界の前に立った。ルナは、アレスの気配に気づき、ゆっくりと顔を上げた。


「アレス…」


ルナの顔には、疲弊と、追いつかれた絶望の色が浮かんでいた。しかし、その瞳の奥には、クリスを救い切ったという、強い満足の光が宿っていた。


その光景が、アレスの狂気の引き金を引いた。


「ルナ。僕の愛を試した罪は重い。だが、これで終わりにしよう」アレスは静かに、そして絶対的な支配の言葉を口にした。「君の王妃教育は終わりだ。これからは、僕の永遠の監禁が始まる」


アレスは剣を抜き放ち、ルナが作った結界を破壊しようと、魔力を集中させた。彼の目的は、結界を破り、ルナを連れ戻すことだけではない。ルナが自分の全てを賭けて守ろうとした、クリスという存在を、ルナの目の前から完全に消し去ることだった。

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