第四十九話:地下水路の孤独と、王子の狂気的な追跡
ルナは、王宮の地下水路を這い、非常用排出弁を通過した。冷たい水と泥の匂いの中で、彼女は自由と、クリスを救うという使命感に突き動かされ、森へと急いだ。手首のブレスレットを通じた魔力波動は、アレスを欺くための完璧な「安寧」を維持していた。平民のルナの知性と魔導の才能が、ついにアレスの支配を超えた瞬間だった。
その頃、アレスは王室会議を終え、私室に戻った。通信機から届く「安寧」の信号に満足しながら、扉を開けた瞬間、ルナがいないという現実が彼を襲った。彼は静かに部屋を捜索し、開けられた換気口と泥の痕跡を発見した。
アレスの顔から血の気が完全に引いた。彼の瞳は、絶望と裏切りへの激しい怒りによって固まった。
「は?僕から逃げるために、僕に与えられた知識で、僕の愛の証であるブレスレットを欺いたのか」
アレスは、ルナの逃亡が、彼女がクリスを選んだ、決定的な裏切りだと認識した。彼は、ルナの心が自分のものではないという、最も残酷な真実に打ちひしがれる
アレスの感情は、激しい怒りから、ルナの存在を永遠に独占するという狂気的な決意へと静かに変わっていった。
彼は通信機を操作し、警備主任を私室に呼び出した。
「警備隊の最高幹部のみを、ここに集めろ。極秘裏の命令だ」アレスは冷徹に命じた。「ルナが脱走した。騎士団の精鋭部隊を動員しろ。追跡部隊の行先は、凍結地帯だ」
アレスはルナの行動の動機がクリスの救出であることを確信していた。彼は続けた。
「僕も行く。追跡部隊の先頭は僕が務める。この件は、王宮の機密とする。」
アレスは、ルナを連れ戻した後の計画を、静かに、しかし絶対的な決意をもって口にした。
「ルナを連れ戻したら、今度こそ、離れの塔の最上階に閉じ込める。 そこは僕専用の塔だ。騎士たちも近づけさせない。彼女の部屋は僕の私室と直結させ、片時も離れずに二人きりで生涯を過ごす。 もう、王位のための義務も、社交も必要ない。僕の王妃は、僕の隣で、僕のためだけに笑い、僕のためだけに生きればいい」
アレスは、ルナを連れ戻すため、即座に私室を後にした。彼の愛は、ルナを永遠に自分の檻に閉じ込めるという、究極の独占欲へと昇華したのだった。




