第四十三話:監禁された日常と、二つの顔を持つ王妃
クリスの処遇に関する絶望的な取引の後、ルナの監禁生活は本格的に始まった。アレスは、ルナの生活の全てを、自身の私室という閉鎖空間の中で、完全に制御し始めた。
朝。ルナが目覚めるのは、アレスの腕の中だった。アレスはルナが寝ている間も決して離れず、ルナの目覚めを待つ。
「おはよう、ルナ。君は、僕の隣で目覚めるのが、世界で最も幸せなことだと知るべきだ」
朝食は、アレスと共に私室で摂る。料理は最高級だが、ルナの口には砂を噛むように味がしなかった。
日中。ルナは、アレスが用意した書斎で、王妃教育と魔導の研究に専念させられる。アレスは、執務がない時間は常にルナの傍らにいて、一挙手一投足を観察した。
「王国の歴史について、君の視点から分析しろ。ただし、君の分析は、僕の王権を強化する結論で終わらなければならない」
ルナは、アレスの望む通りの回答を用意した。彼女の頭脳は冴えていたが、その才能は今、推しの支配のためにのみ使われていた。彼女が以前クリスと研究した古代魔導の知識も、アレスの属性魔導を理解するための「補強知識」として、表面だけを報告した。
「僕の属性魔法は、なぜ他の属性を圧倒するのか。君の知識で、それを理論的に証明してみろ」アレスはルナに、彼を神格化するための課題を与えた。
ルナは、古代魔導の理論を巧妙に偽装し、アレスの属性が持つ「純粋な魔力波動の固定化」に優れていることを論理的に説明した。アレスは、ルナの回答に満足し、彼女の才能を褒め称えた。
「素晴らしい。やはり君は、僕の支配下でこそ、最も輝く」
しかし、ルナの心は二つに分かれていた。一つは、アレスの望む通りの完璧な王妃の顔。もう一つは、クリスの助命のために、この支配を受け入れている囚人の顔だった。
ルナが孤独に耐えられず、ふと沈んだ表情を見せたり、手首のブレスレットに触れたりすると、すぐにアレスの目が細められた。
「今、何を考えていた。僕以外のことを考えていたな」
ブレスレットがアレスの通信機に異常信号を送っていなくとも、アレスはルナのわずかな心の揺らぎを見逃さなかった。彼の猜疑心と独占欲は、ルナの全ての行動を監視していた。
「いいえ、アレス。ただ、あなたの愛の深さを考えていました。あなたのために、もっと早くこの才能を開花させるべきだったと」ルナは、偽りの愛の言葉を囁いた。
夜。アレスは、ルナを抱きしめ、自分の存在をルナの全身に刻み込もうとした。
「君はもう、僕のものだ。君の知識も、才能も、体も、心も。全てが僕の王権の道具であり、僕の愛の証だ」
ルナは抵抗しなかった。抵抗はクリスの命をさらに危うくするだけだと知っていたからだ。ルナは、アレスの愛を受け入れるふりをしながら、自身の精神を守るため、心の奥底に硬い壁を築き始めた。
彼女は、アレスの愛を受け入れる完璧な王妃を演じ続けることで、クリスが辺境で生き延びるための時間と、この檻から脱出するための次の機会を、静かに探り始めたのだった。




