第十四話:未来の王妃の外交努力
昨夜、アレスからの呼び出しメッセージを受け取った。今日の午後、実習の後に彼に会う。その約束を胸に、私は学園二日目の朝を迎えた。
アレスが私を守ってくれているおかげで、学園生活は完璧な平和が約束されている。誰も私に嫌がらせをしないし、私に話しかけてこない。
(アレス様、さすがです!私が一番嫌いな、面倒くさい人間関係のトラブルを根元から排除してくれたわ。勉強に集中できるし、最高に推しらしいサポート!)
しかし、私はふと立ち止まった。このままでは、私は学園生活で誰とも関わらずに終わってしまう。それは一見快適だが、将来を考えると大きな問題だ。
(アレスはいつか、私を彼の隣に立たせるつもりよ。この国の王妃として。でも、考えてみて。もし私が、学園で誰一人友達を作れない、貴族社会で完全に孤立した平民出身の王妃になったらどうなる?)
その答えは明白だった。王妃が周囲から支持されなければ、それは回りまわってアレスの統治に迷惑をかけることになる。アレスは国の改革で多くの敵を作っている。その彼の隣に立つ私が、後ろ盾も人望もなければ、彼の弱点になりかねない。
(だめよ!顔面S級の推しを、私のせいで困難に陥らせるわけにはいかない!推しの地位と顔面を守るためにも、私はこの学園で、誰かに認められ、友好関係を築かなきゃ!)
私は孤立を恐れて友達を作るのではない。「未来の王妃」として、アレスの治世を揺るがさないための外交努力なのだ。そう自分に言い聞かせると、強い使命感に変わった。
そして、午前中の休憩時間。私は勇気を出して特待生クラスの生徒たちに近づいた。
「あの、よろしければご一緒しませんか?古代魔法史の復習をしたいのですが…」
ターゲットにしたのは、伯爵令嬢のシエナだった。彼女は優秀で、真面目そうな生徒だ。
シエナは私が話しかけた瞬間、ビクッと体を震わせ、まるで毒蛇を見たかのように顔を青くした。
「い、いえっ!結構です!わ、私は…その、別の友人と約束があるので!」
シエナはそう叫ぶと、ほとんど悲鳴に近い勢いで教室を飛び出していった。
(ええー…そんなに怖がる?私が話しかけただけなのに)
次に試みたのは、昼食時だった。私はトレイを持って、有力貴族の子息たちのテーブルに近づいた。
「あの、この魔力収束の記述について、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
子息たちは顔を見合わせ、誰も私と目を合わせようとしない。そして、一人の少年が、蚊の鳴くような声で答えた。
「お、恐れ入ります、ルナ様。私たちは、その、殿下の…お気持ちを鑑みまして、貴女様とは、いかなる交流も自粛させていただいております」
彼らはそう言い残すと、食べかけのパンを置いて逃げるように去っていった。
(殿下のお気持ちを鑑みるって…アレスの支配、強すぎない!?)
ルナは絶望した。アレスが張った絶対的な守護の結界は、完璧すぎて、いかなる「友好の光」さえも透過させないのだ。学園の生徒たちは、私を恐れているのではない。私に近づくことで、第一王子の逆鱗に触れることを恐れているのだ。
しかし、私は諦めない。推しの将来がかかっているのだ。午後の実習の鐘が鳴る。実習が終われば、私はアレスの元へ向かわなければならない。
(アレスに会う前に、外交努力の成果を見せたかったけど、無理だったわ。こうなったら、誰もが私に話しかけたくなるほどの魅力を示すしかない!)
ルナは気持ちを切り替え、午後の実習へと向かった。実習室の扉をくぐる。




