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没集です。

美しい小説が読みたいか?ああ、そうだ。僕は美しい小説が読みたい。君はどうだ?君は美しい小説が読みたいか?ある人は美しい小説なんてごめんだと言うだろう。彼らが読むのは流行の陳腐な物語小説である。人々が読むのは東野圭吾や海堂尊や宮部みゆきで、彼らの小説は確かに面白いが美の気韻に欠ける。少なくとも僕はそう思う。確かに過去には美しい小説があった。太宰治や芥川龍之介、三島由紀夫に川端康成。しかし彼らに後継者はいない。だから・・・・・僕が彼らの代わりに書いてあげる。君たちは最初僕の小説がつまらないと思うだろう。美なんてそんなものは小説にないと言うだろう。しかし再読したり、しばらく経ってから読んだりしたら分かるはずだ。僕がこの小説にどれだけ心血を注いだということが。そうして僕にも興味を持ってくれるだろう。けれど僕はすぐに退場する。僕はあくまでも呼び水だ。本当の天才はきっと僕の後に現れる。だから僕の役割は・・・・本当の天才の小説家の為に美の小説に君らを呼ぶことだと思う。おいでおいでをして、君らにあい、僕は多少饒舌に色々なことを語るだろう。甘い話や苦い話、人生において役に立つ話や、ひょうきんな話。さあ、もう幕が開く・・・・・・




僕は空が好きだった。それもいつの頃からのことだろう?僕はよく自宅の近くの河原で草原に寝転び、遠い遠い青空を眺めて過ごしたものだった。そんな時、僕は幸福だった。美しい空。美しい雲。永遠を思わせる空。永遠を思わせる雲。そんな空に・・・・・僕は憧れた。死ぬほど憧れた。いつの日かこの空も見られなくなるかもしれない。そんなことが少し怖かった。

さて僕はその頃高校生だった。東京の平凡な高校に通い、恋もせず、友達と仲良く学校生活を過ごしていた。平凡な毎日。平凡な日々。でもそれって結構重要なことなんじゃないかな。そう僕は思っていた。平凡だから輝く物もある。平凡だから美しい瞬間もある。確かにとびきり美しい女の子には会えないけれど僕は毎日、朝6時に起きて歯を磨き顔を洗い。朝食を取って、家族とコミュニケーションを取り、家の犬に話しかけて、やがて学校に行っていた。いつもの道を通り、少し古びた坂道を登り、電車に乗って、学校へと着く。そんな日常がたまらなく好きだった。そんな何も変わり映えしない日常が・・・・・

僕は小説を書いていた。まだ稚拙だけれど、いつかは上手くなって小説で食えるようになりたい。それが僕の夢だった。少年よ大志を抱け。そんな有名な言葉もあるし、いいじゃないか。僕が小説を書くのを生意気と思わないでほしい。それに小説を書いていれば、美女に会える。某有名純文学作家はさんざん美女にあっているらしいし。でへへ、僕も美女に会えるかな。でもいまは無理だ。僕は一介の高校生。美少女になんて会えるわけない。でも小説を通して夢は広がる。少年もいつか大人になる。その先にはきっと輝かしい未来が待っているはずだから・・・・小説は結構難しい。ストーリーや文章の修行をするには、既存のいい小説をいっぱい読む必要がある。それは大変。ドストエフスキーを読むのは正直きつい。カラマーゾフの兄弟とか。罪と罰とか。だったら短編小説から入ろうかな。それでも自分の満足いく小説書くのに三年はかかるんじゃないか。それは辛い。一人前になるのはいつの日だろう。辛い。本当に辛い。いっそ辞めたい。でもここで辞めていいのか?これまでの努力を水の泡にしていいのか?違うだろ!僕は一度決めたじゃないか。小説家になるって。だから最後まで書かないと。最後まで自分の決めた道をやり通さないと。第一まだ初めて二か月だ。そんなんで辞めたらみんなに笑われる。ああでもいっそお笑い芸人は?それもいい。でも僕はお笑いは嫌だ。絶対嫌だ。サッカーも野球も高校から初めても絶対無理だ。プロになれない。でも小説だったら・・・・まだ遅くはない。そうだ。小説だ。やれやれ、そろそろ電サが来るぞ。

そう思い僕は電車に乗った。朝日が眩しい。電車の窓越しに朝の太陽が射している。それを見ると私は金閣を想像した。なんてね。金閣寺のパクリはしませんて。僕は席に座る。その時にふと気づいた。目の前の席にすごい可愛い美少女が座っている。やや茶色の混じったサラサラヘアーつぶらな瞳に西洋人のような造形。唇は少し厚く、鼻は高く、どこから見ても完璧な美少女だ。どこかイタリア風だ。とても日本人には見えない。そうしてヘッドホンをしている。なんの音楽を聴いているのかな。僕は心臓が早くなるのを意識していた・・・・可愛い。可愛い。どこの子だろう。制服を着ているから学生だよな。インフルエンサーかな?でもインフルエンサーだったら電車なんか乗るか?知り合いになりたい。でも僕なんか・・・・・そんな弱気な気持ちになる。これまで女の子に声を掛けたこともない。Hしたこともない。でもしっかりしろ。まず何か話しかけたい。話題が欲しい。どうしよう。どんどん降りる駅が迫ってくる。彼女もどこで降りるのか・・・・・そうだ・・・

「君こういうことを考えたことある。年を取ってやったことや、やらなかったことを後悔することを・・・・・」

「何?あなた誰?」

「年を取ってからはみんな後悔するんだ。あああの時にああしておけばよかったなあって。もっといい女の子に声を掛けておけばよかった。もっといい所に旅行をしておけばよかったって。とりわけその中でも大きな後悔はあいつに会っておけばよかったなあって後悔なんだ」

「そう。そうかなあ。私はまだ若いから分からないわ」

「想像してごらん。君は年を取る。君は年老いていて隣には夫が居る。そうして君は夫以外あまり冒険をしなかった。君はきっと頑固だったんだ。会えるチャンスはあった。何度でもあった。けれど君は鈍感でそんなチャンスを何度も逃してきたんだ。年を取った今なら分かる。私ばかだったんだなって・・・・・・・だから君は若い頃を無駄にしちゃいけないよ。良かったら僕と連絡先を交換しませんか?」

「うーん。そんなこと言われても」

「年を取ってから後悔しても遅いよ。僕はいずれ小説家になるんだ。それも大小説家に・・・・・僕も後悔したくはない。僕は君が欲しい」

「あなたって大胆ね・・・・・分かったわ。私のLINEを教えるから」

そうして僕らは知り合いになった。それが四月三日、まだ桜の咲いていた暖かいある一日の出来事だった。

僕はもうその日のうちに彼女に連絡した。LINE先には宮沢律子と書いてある。僕は「さっき会った者ですけど、こんにちは。僕の名前は、斑鳩義弘いかるごよしひろといいます。よろしく」と打った。そうしてスマホの画面を閉じる。まだ彼女の顔が浮かぶ。僕は彼女と知り合いになったんだ。彼女と。それがひどく嬉しかった。

夕方になった。なかなかLINEに既読が付かない。あんな可愛い子だしなあ。みんなにちやほやされてるんだろうな。きっと忙しいのかなあ。部活は何に入っているんだろう。運動部なのかなあ。足も健康そうだった。今頃どうしているんだろう。僕はスマホをいじって彼女からのLINEは音が鳴るようにした。(普段僕のLINEは音が鳴らない)なかなか既読がつかない。夜になった。僕はスマホとにらめっこをしている。時々チェックする。そうして・・・・やっと返事が来た。もう夜の八時だ。「はじめまして。斑鳩くん。私の名前は宮沢律子といいます。これからよろしくね」そう書いてあった。

僕はすぐに返事を書く。彼女がそれに返す。そうしてだんだん僕にも彼女のことが分かってきた。彼女、宮沢律子は都内の私立高校に通っている。三人兄弟の末っ子だ。上は長女と次男が居る。陸上部に所属している。彼氏は居なくて、付き合った経験も無い。中学の頃に先輩に告白して振られている。それからおそらくだが、セックスの経験も無い。そのことが僕には嬉しかった。彼女はきっと僕なんかたいして好きじゃないだろう。それも当然だ。僕はそんなにいい見た目じゃない。ルックスは平均的だ。だって僕の武器は小説だ。それもまだ急造の武器だが・・・・・ルックスはイケメンに任せればいい。彼女もきっといつかはイケメンに口説かれて、そうして付いていってしまうだろうな。それは悲しい。世の中にはそんな悲しい人々がたくさん居て、いい想いをするのはほんの一握りの人間なんだろう。だから小説家だ。そんなほんの一握りに僕もなりたい。僕の小説が売れれば彼女だってきっと・・・・だから僕は小説を書いていかなければ・・・・・彼女は将来何になるつもりだろう?そのことが僕は気になった。






ある日の学校からの帰り道、僕は同じクラスの男子生徒、丸井伴人まるいともひとから話しかけられた。

「なあ春井。お前は好きな人って居るか?」

 突然、彼はそんなことを言ってきた。僕と彼とは、たいした接点もないのに

・・・・・・・・

 当然のように、僕は他人行儀な答え方をする。

「いや、別に居ないよ。どうして?」

「いや、実はな俺には最近好きな人が出来てな・・・・・・・春井に言っておくべきだと思ったんだ。だってその相手はお前の幼馴染の・・・・・・・・祖父方撫子そふかたなでこだからだよ」

 それを聞くと、僕は少し痛みを感じた。その痛みは僕にも意外なものだった。

「いや、いいんだ。僕は別に撫子を好きというわけじゃないし・・・・・・・良かったら撫子に君を紹介してあげようか?」

「!本当か?」

「ああ、本当さ」

 そう僕は言う。

「じゃあ、俺のことを紹介してくれ!撫子さんと俺は話もしたことが無いんだ・・・・・・」

「ああ、じゃあ僕にメルアドと電話番号を教えてくれないか?」

「ああ、勿論」

 そう言い彼は僕に携帯のメルアドと電話番号を渡した。


僕は自分がまだ十代だった頃の辛い過去をあまり思い出したくない。なぜならその過去はあまりに辛い出来事で塗り固められているからだ。それは本当に苦しいことで、悲しいことで、けれどせつなく、甘い思い出も多少まだ少し覚えている。

 律子、僕の青春。十六歳の頃、僕は彼女と知り合った。十七歳の頃、僕は彼女と結ばれた。そうして僕が十八歳の頃、彼女は死んだ。そのことが僕はトラウマで、ずっと彼女とのことを誰にも語ってこなかった。けれど小説家になった今、ここに僕は語ろう。彼女との辛くも甘い思い出を・・・・・

 僕の住んでいたのは、神奈川県のとある海沿いの街だ。そこで僕は育ち、大きくなって・・・・やがて青年になった。僕は海が好きだった。夏になると、僕の住んでいる街には大量の観光客がやってきて、街はそのことで潤っていた。夏になると、みんなやってくる。僕の近所に住んでいた男の人はよくビーチで女の人を口説いては、物にしていたらしい。そんな武勇伝はいっぱいあった。曰く、女にモテた。喧嘩で十人を倒した。警察沙汰になった。大物の魚を取った。僕の街は結構そんなことでにぎやかな街だった。僕も時々、浜辺できれいな女の人を見た。最も大抵、男連れだったけれど・・・・そんな中で僕は育っていった。


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