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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
1章.転生
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008KT.黙して

おかしい、と思ったのは、たしか初めて言葉を交わした日だった。


私は佐久間象山殿の講義を拝聴するため、勘定所の命で随行しただけだった。

だが、その教場の隅にいた一人の若者――勝麟太郎には、何か、妙な“ほころび”があった。


言葉遣いは控えめ。振る舞いも粗相はない。

それでいて、どこか目の奥だけが、時代から浮いている。


私は人間の「間」を見るのが癖だ。

言葉と表情、沈黙と瞬き。そのどれにも、性格や本質がにじむ。


あの男は、会話のテンポをわざと外す。

質問には答えず、答える時には誰も聞いていないことを言う。

――それは、言葉を“演じている者”のやり口だ。


思わず問うてみた。


「勝殿、貴殿は何者ですかな?」


冗談のように言った。

だが、返ってきた笑顔には、ほんのわずかに“防御”があった。


私のような役人には、日々多くの者が関わる。

無能、曲者、才人、変人。すぐに見分けがつく。

だが、麟太郎は……見えすぎて、見えない。


まるで、


「全体像を隠すために、あえて素直にしている」

ような人物。



その後も何度か顔を合わせたが、彼の中には一貫して「本当の答えをどこかにしまっている」気配があった。


たとえば、蒸気船の話。

冗談めかして投げた話題に、周囲は困惑したが、私は試しに「燃料の確保が難しい」と返してみた。

反応を見たかったのだ。


彼は、息を止めたように一瞬黙った。

言葉よりも、その“沈黙”の質がすべてを物語っていた。


あの男――未来を知っている。


……だが、私もまた、そう遠くはない場所から来ているのかもしれない。

この国が変わるという確信は、すでに心の中にある。

それが何によって、どこへ向かうのか。その先に、彼がどう関わってくるのか。


今はまだ、見極める時だ。


だから私は、名乗らぬ。

ただ、目を凝らす。


あの男の正体が、

やがて、この国の命運にどれほどの重みをもたらすのか――



[ちょこっと歴史解説]

川路聖謨と勝海舟──幕末を支えた知と胆


川路聖謨かわじ としあきら勝海舟かつ かいしゅうは、ともに幕末の政局で重要な役割を果たした幕臣ですが、性格も評判もまったく対照的でした。


川路聖謨は、実直で誠実、几帳面な官僚タイプ。外国との交渉にも毅然と対応し、部下にも慕われた人格者でした。ただ、時代の変化には悩み苦しみ、最後は自ら命を絶ちます。まさに「幕臣のかがみ」とも言える存在です。


一方の勝海舟は、弁舌さわやかで柔軟、どこか憎めない策士タイプ。海軍創設や江戸無血開城など、大胆な行動力で時代を切り開きました。その分、敵も多く「調子のいいやつ」と見られることもありましたが、最後まで生き抜き、新政府にも重用されました。


同じ幕府に仕えながら、**一方は理想に殉じ、一方は理想を抱えつつも現実に生きた――**そんなふたりの姿は、幕末という激動の時代を象徴しているかもしれません。

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