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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
7.若き老中(構)
81/155

054A. 若き老中(糸)―結び目―


巻紙は細く、小者の袖の内に隠されていた。

開けば、町方の訴えである。ある勘定所の役人が、倉米を私的に横流ししているらしい。

額は僅かに見えるが、積もれば大きい。

――評定所で口にすべきか。若輩の私が、笑われはせぬか。


迷いながらも、次の会合で私は声を上げた。

「倉の出納に不正の疑いがあると、町方より報せを受けております」


広間に一瞬、冷えた空気が走る。

年長の老中は、唇の端を上げて言った。

「若殿、町人の流言に振り回されては務まらぬぞ」


退けられるか――そう思ったその時、奉行衆のひとりが口を開いた。

「実は、その件につきまして、調べを進めておりました。確かに怪しき出納があり……」


ざわめきが広がる。

小さな囁きが、確かな証となって表に引き出された。

倉米の不正は財政の穴へと繋がり、放置すれば幕府全体を蝕むものとなる。


「小事と思われた声が、大事を救うこともある」

自らの言葉に、私の胸が熱くなる。


会合ののち廊下に立てば、背に集まる視線が変わっていた。

好奇、軽侮、そしてわずかな敬意。

囁きは糸となり、糸は結び目を作る。

それがやがて網となり、政を支えるのだ。


私は確信する。

老中の座に座すとは、大声で押し返すことではない。

小さな声を束ね、結び目に変えること――それこそ、私の役割だ。


[ちょこっと歴史解説]

幕府の政治といえば大事件や外交が目につきますが、実際には倉米の出納や役所の帳簿など「小さな事務の正しさ」が政を支えていました。阿部正弘は若年ながらも、町奉行・勘定奉行と密に連絡を取り、細部に目を配った老中とされています。後年の改革的な施策も、この「声なき声」に耳を澄ませた姿勢から芽吹いていったと考えられます。

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