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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
6.若き老中
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048A10. 若き老中(輪)ーつながる声ー

「……この三人を、今後、連絡が取れるようにしておきたい」


書院の静けさの中で、正弘は川路に言った。

それは命令でも、お願いでもなかった。ただ――「意志」だった。


川路は頷いた。


「承知いたしました。役職を介せば、さほど目立たず繋げましょう」


「目立つ必要はない。ただ、声が届けばそれでよい」


正弘は、机の上に並べた三通の書状に目を落とした。


それぞれに記されたのは、異なる分野で選ばれた者たち。

儒、法、実務――

派閥にも属さず、共通点も乏しい。けれどその目には、共通のものがあった。


(未来を見ていた)



「老中様は、輪を作られるおつもりですか」


川路の言葉に、正弘は少しだけ笑みを浮かべた。


「輪など、まだ早い。ただ……声が散らばらぬように」



かつて自分が、そうであった。


老中に召される前、昌平坂に通い、学び、観察し、黙して耐えていた時代。


あのとき、どこかに話せる相手がいたなら。

互いの思いを、ほんの少しでも言葉にできたなら。

己が感じていた閉塞も、ほんのわずかに、変わっていたかもしれない。



「思いを語る場を設けるのではなく、語ってよいのだと、知らせる」


「それは、命じるのとは異なりますね」


「ああ」


正弘は頷いた。


「政に立つ者の声は、しばしば“沈黙”によって始まる。

だからこそ、つながりは、明示ではなく、ささやきで生まれるのだ」



封をした書状を、ひとつひとつ、重ねる。


その手つきは、静かで、確かだった。



政治とは、命令によって成るのではない。

意志が連なり、やがて「輪」となって、初めて力を帯びる。


その日、阿部正弘はまだ名もなき輪を――

誰にも見えぬところで、確かに結び始めていた。


[ちょこっと歴史解説]

▪️「輪」としての人材登用 —— 阿部正弘の人的ネットワーク


阿部正弘の政治手腕は、単なる人事の妙だけではありません。

彼の強みは、登用した人々の間に“目に見えぬ連携”を生む力にありました。


それは「会議体」でも「命令系統」でもない。

それぞれが、自らの意志で動けるようなつながりを、じわじわと築いていったのです。


川路聖謨・村垣範正・石井宗謙・永井尚志など、後に幕政を担う面々が、

この時期に静かにその輪の中に入っていきました。


本話では、そうした「つながりのはじまり」を、阿部の視点から描いています。

それは目立たぬように、だが確かに時代の構造を変えていく動きでした。

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