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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
6.若き老中
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048A6. 若き老中(白)ー書状ー

白紙の上に筆を落とせずにいる。

硯の墨はすでに乾きかけていた。


評定所では、誰も反対しなかった。

誰も賛成もしなかった。


ただ、無風のまま議題は流れ、時間だけが過ぎた。

あの沈黙は、決して中立などではなかった。

あれは、明確な「拒絶」だった。


――動くな。

――お前はまだ若い。

――老中とは、座して口をつぐむ者のこと。


「ふざけるな……!」


唇が震えていた。

思わず立ち上がり、障子を開け放つ。

夜の空気が肩口を撫でると、怒りと迷いが交じった熱がようやく鎮まってきた。


机の上には、一通の書状。

川路聖謨からの報告だった。


異国の影、民のざわめき、商人の不満、農民の疲弊。

言葉は冷静だ。だが、その筆の奥には明確な“火”があった。


正弘は、その書状の余白に指を置いた。

この火に応えずして、老中を名乗ることなどできるのか。



再び座し、筆を取る。

今度は、躊躇わなかった。


「あなたの報告を拝見しました。

 その一文一文に、私の血が呼応したのです」


この書状は命令ではない。

しかし、ただの返礼でもない。

これは、志の接触だ。炎の触れ合いだ。


「我らは、政を守るためにここにいるのではない。

 声なき者の叫びを拾い、拾った責を果たすためにこそ、座しているのです」


そして、書き添える。


「今はまだ、動かすことはできぬ。

 だが、必ず時が来る。その時、あなたのような者が必要だ。

 私は、忘れません」


筆先が、書面の端で止まった。

その瞬間、書状に刻まれたのは宣言だった。



白紙が白紙でなくなる。

意志を通した言葉が、それを「書状」に変えた。


それはまだ、誰の目にも留まらない。

だがこの夜、阿部正弘は確かに一歩を踏み出した。


老中としてではない。

ひとりの人間として、“動く者”になるために。



◆ちょこっと歴史解説


幕政の中で「動く」ということ


江戸幕府中期以降、「変化」は常に嫌われた。

多くの老中たちは、むしろ“何もしないこと”を賢明とし、

表立った改革を避ける傾向が強かった。


だが、阿部正弘は老中として例外的に**“動こうとした”存在**である。

彼の人材登用、異国対応、教育政策などは、すべて「火を抱えながら前に進む」姿勢の現れだった。


この回で描かれた「書状」は、

その動きの最初の“熱”であり、静かなる宣戦布告だったのかもしれない。

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