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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
1章.転生
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005KR.試問

信用しておらん。

だが、まるきり否定もできぬ。


勝麟太郎とは、そういう弟子だ。


語るに足らぬ者なら、忘れ去ればよい。

だがあやつは、忘れた頃に、こちらの想定を越える言葉を吐く。


ならばこちらも一つ、試してやろう。



その日の講義には、やや難解な西洋兵学書を用いた。

蘭文は崩してあり、内容も抽象的。

並の者なら、意味をとることさえ苦労する。


「この一節、diepe strategische opstelling(戦略的配置の深さ)――どう解するか?」


私は敢えて、麟太郎を指名した。


あやつは一瞬、面倒そうに目を伏せたが、すぐに顔を上げた。


「戦において、防御線を一つで張るのではなく、退路や補給を確保しつつ、層をもって耐える構えです。地理より、思想の話だと思います」


……言葉は正しい。

だが、それは翻訳書にすらまだ載っていない“解釈”だ。


「何を根拠に、そう言う?」


「……それが一番、勝ち目がある気がして」


まただ。“気がして”――

あやつは、理屈で語らぬ。


理屈の前に、結果を知っている者のように。


その後も続けた。

「艦船の構造において、中央集中式の火器配置は――」

「先生、きっと“制海権”という概念が出てきますよ」


聞いたこともない語を、当然のように口にする。


私は意地になって尋ねた。


「それは、おぬしの夢に出てきたのか?」


麟太郎は、一瞬黙ってから、笑った。


「……さあ。夢だったら、どうします?」


その目は、やはり何かを“見てきた者”の目だった。



おかしなことに、私は腹が立たなかった。

知りたい、と思ったのだ。


勝麟太郎という男が、どこから来て、どこへ向かおうとしているのかを。


[ちょこっと歴史解説]


佐久間象山さくま・しょうざん


信州松代藩出身の思想家・兵学者。

西洋の科学技術・軍事理論を積極的に取り入れ、「東洋道徳・西洋芸術」を説く。

時に尊皇攘夷派から危険視されるも、その学識と器量は一目置かれた。


25/7/29 strategic depth (英語)=>diepe strategische opstelling(戦略的配置の深さ)(オランダ語)に変更

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