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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
16.阿部正弘
199/201

165A 去りゆくもの

 音が、

 遠くなっていた。


 人の声ではない。

 物音でもない。


 時間の音だ。


 阿部正弘は、

 薄く開けた目で、

 天井を見ていた。


 白い。

 何も書かれていない。


 それでいい、

 と思った。


 この数年、

 あまりにも多くの言葉を、

 並べてきた。


 集め、

 比べ、

 削り、

 均した。


 誰かを説き伏せるためではない。

 誰かを黙らせるためでもない。


 場が、

 壊れぬように。


 それだけだった。


 正しかったか、

 と問われれば、

 答えは出ない。


 だが、

 やるべきことは、

 やった。


 それだけは、

 分かる。


 遠くで、

 紙を扱う音がした。


 誰かが、

 今日のことも、

 書き留めている。


 (……書かれなくていい。)


 今この瞬間は、

 政ではない。


 決断でも、

 判断でもない。


 ただ、

 役割が終わるだけだ。


 意識の端で、

 幾つかの顔が浮かんだ。


 声を集める者。

 距離を測る者。

 整える者。

 引き受ける者。


 それぞれが、

 それぞれの場所に立つ。


 それで、

 いい。


 均す政治は、

 ここまでだ。


 この先に必要なのが、

 別の形であっても、

 否定する気はなかった。


 否定できるほど、

 単純な時代ではない。


 息を、

 ひとつ吐く。


 浅いが、

 苦しくはない。


 後悔は、

 なかった。


 理想も、

 残さない。


 ただ、

 割れたままでも、

 国が進む時間を、

 少しだけ、

 延ばした。


 それで、

 十分だ。


 この先に、

 自分の名が出てこないことを、

 正弘は、

 知らなかった。


 音が、

 完全に消えた。


 均されたまま、

 世界は、

 次へ進む。




[ちょこっと歴史解説]


阿部正弘の最期と、その位置づけ


安政五年(1858)六月、

阿部正弘は病により死去しました。

享年三十九。


彼の死から間もなく、

幕府は 日米修好通商条約 を調印します。

阿部正弘は、

その結果を直接見ることなく、

政の場を去りました。


史料上、

阿部正弘の政治は、

•合議と調整を重視し

•対立を抑え

•時間を稼ぐ


という特徴を持ちます。


それは、

外圧に直面した日本が

即時の衝突を避けるうえで、

一定の役割を果たしました。


一方で、

通商条約という

より明確な決断を要する局面では、

この手法が限界に近づいていたことも事実です。


阿部正弘の退場は、

失策の結果ではありません。


政治の型が、

次の段階へ引き渡された瞬間


と捉えることができます。


均す者が去った後、

政は

「引き受ける」者を必要とする時代へ、

移っていきました。

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