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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
16.阿部正弘
197/201

163KR.間に合わない

 準備が足りない。

 それは、

 ずっと前から分かっていた。


 勝麟太郎は、

 机上に広げた図面を、

 一枚ずつ、

 押さえ直した。


 船。

 人。

 金。


 どれを取っても、

 足りていない。


 それでも、

 ここまでは、

 「何とかする」で通ってきた。


 蒸気の扱いも、

 測量も、

 翻訳も。


 足りないなりに、

 追いつく道は、

 まだ、

 見えていた。


 だが、

 通商となると、

 話は違う。


 条約は、

 署名した瞬間に、

 効力を持つ。


 準備が整うまで、

 待ってはくれない。


 勝は、

 息を吐いた。


 (……間に合わない。)


 誰かが、

 決断を誤った、

 という話ではない。


 時間が、

 足りないのだ。


 そして、

 その時間を、

 作ってきた人物が、

 今、

 前にいない。


 阿部正弘の顔が、

 ふと、

 脳裏に浮かんだ。


 均す。

 集める。

 割れないように、

 保つ。


 そのやり方がなければ、

 この段階に、

 辿り着くことさえ、

 できなかった。


 だが、

 そのやり方では、

 もう、

 先へ進めない。


 勝は、

 図面を畳んだ。


 これから必要なのは、

 判断ではない。

 評価でもない。


 「整える」ことだ。


 揃えきれないなら、

 切り捨てる。

 足りないなら、

 借りる。


 理屈ではなく、

 現場で回る形を、

 作る。


 それができる者が、

 前に出なければならない。


 (……俺の役目じゃない。)


 そう、

 即座に思った。


 だが、

 誰の役目か、

 と問われれば、

 答えは出ない。


 勝は、

 立ち上がった。


 準備が、

 間に合わない。


 だからこそ、

 止まるわけには、

 いかなかった。




[ちょこっと歴史解説]


勝麟太郎と「準備」という現実


安政期以降、

幕府が直面した最大の問題の一つは、

対外交渉そのものよりも、

それを支える準備の不足でした。


勝麟太郎(のちの勝海舟)は、

•航海術

•造船・機関技術

•海防・測量

•通訳・翻訳体制


といった、

実務的基盤の欠如を、

現場から痛感していた人物です。


通商条約は、

締結した時点で

現実を動かします。


しかし当時の日本には、

•それを支える人材

•制度

•技術


が、

十分に揃っていませんでした。


163KRで描いている「間に合わない」という感覚は、

誰かの失策を指すものではありません。


時間を稼ぐ政治は成功したが、

準備を完成させるには、

なお時間が足りなかった


という、

構造的な問題です。


この不足は、

やがて、

•より強い統制

•より迅速な決断


を求める流れを生み、

次の時代の政治を形作っていくことになります。

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