表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
2章.暮らし
17/146

016A.夜更け、灯火のもとで

夜。


 部屋の中は、行灯の淡い明かりだけが照らしている。

 外からは、風に揺れる竹の葉音と、どこかで虫の鳴く声がしていた。


 私は畳の上に座り込み、ふうと長く息を吐いた。

 手には今日一日で書き写した紙が数枚――ぐにゃぐにゃの筆文字が、情けなく並んでいる。


 「……私、ほんとにバカだったな」


 ぽつりと、誰に向けるでもなくつぶやく。

 転生とか、江戸時代とか。修学旅行中に突然こんなことになるなんて、そんな漫画みたいな展開が本当にあるとは思ってなかった。


 だけど――。


 「これは、夢じゃないんだよね」


 手に走った筆の感触。

 白いご飯の甘み。

 侍女の視線。

 父の重みのある声。

 そして、今日すれ違ったあの男の、何かを訴えるような目。


 全部が現実で、全部が「ここ」で生きている証だった。


 「じゃあ、やるしかないんだ」


 この体は阿部正弘。将来、幕府の要職につく家の跡取り。

 でも中身はただの女子高生。しかも特に成績がいいわけでも、リーダーシップがあるわけでもない。


 それでも――この世界で、私は“私”として生きなきゃいけない。


 「……どこかで、みんなも生きてるよね」


 そう信じたかった。

 あの、いっつも静かな子。無駄にテンション高かった男子たち。みんなも、どこかでこの時代を生きているはず。

 もし、また出会えたら――今度はちゃんと、言いたいことがある。


 「私、“阿部正弘”として、この時代をちゃんと見てみたい」


 行灯の火がゆらゆらと揺れる。

 それはまるで、静かに燃える意志のように、部屋を照らしていた。



[ちょこっと歴史解説]黒船前夜


幕末といえば「黒船」──ですが、実はそのずっと前から、日本は少しずつ揺れはじめていました。


▪️ 外からの圧力、じわじわと


ペリーの来航(1853年)の前にも、ロシアやアメリカの船が何度も接触を試みています。

•1792年:ロシアの使節・ラクスマンが来航

•1837年:アメリカのモリソン号が通商を求めて来るが追い返される

•1846年:アメリカ海軍のビッドル提督も開国を求めるが、やはり拒絶


つまり、幕府はずっと「来るな」と言い続けていた。

けれど、海の向こうの大国たちは、じわじわと“その時”を近づけていたのです。



江戸の中も、不安だらけ

•天保の飢饉(1830年代)で人々は飢え、一揆や打ちこわしが頻発

•改革(天保の改革)をやってみるも、成果はあがらず人心は離れる

•経済も政治も、「このままじゃまずい」と誰もが感じ始めていました


老中たちも、答えが見つからず困っていた時代。

けれどそんな中、ある若者が現れます──阿部正弘、25歳。

彼が目を向けたのは、「この先に来るかもしれない嵐」でした。



嵐の前に、目を開いた人たち


阿部は西洋の知識や翻訳、海防の必要性に目を向け、

川路聖謨、勝麟太郎、永井尚志といった“開明派”の若者たちを集め始めます。


彼らはまだ、誰にも知られていない。

でも、歴史の大きな波の前に、ひそかに準備を始めていたのです。



この物語が描いているのは、

まだ誰も“黒船”を知らない頃、世界の風に気づいた者たちの始まりです。


夜にもう1話、投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ