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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
12.黒き報(くろきしらせ)
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110KR2. 帆影の下で(江戸)

浦賀の黒は、海だけのものではなかった。

 江戸へ戻ると、街そのものがどこか黒ずんで見えた。


 「浦賀が焼けたらしい」

 「化け物の船が火を吹いたとか」

 「幕府が隠しておるに違いない」


 言葉が街を駆け抜ける。

 魚屋が団扇で風を送り、瓦版屋は筆を止める間もなく新しい“恐怖”を書き散らしていた。

 女たちは井戸端で不安を語り、子どもは「異人、異人」と叫びながら走り回る。


 恐怖は、見えぬものを語るときに一番よく育つ。

 笑いと怯えが入り混じった街のざわめきの中で、勝はひとり耳を澄ました。


 ――見た者は少ない。

 だが、語る者は多い。


 「見ぬ者の声が、国を動かすのか」

 小さく呟いた背後から、静かな声が返った。


 「見た者が語らねば、理は死ぬ」


 振り向くまでもない。

 聞き慣れた声だった。


 「先生……」

 「浦賀で見たというのは、おぬしか」


 佐久間象山は、門前に立っていた。

 羽織の裾を風がはためかせ、眼差しには理と火が共に宿っていた。


 「どうだった、黒き船は」

 「……美しいと思いました」

 「うむ。恐れぬ目は、理の始まりだ」


 塾の門の内では、書生たちが航海図を広げていた。

 “蒸気”“羅針”“鉄”――口々に、未知の言葉が飛び交う。

 熱気。だがそこにあるのは怒りではなく、知りたいという欲だった。


 象山は塾の中を一瞥し、言った。

 「麟太郎、見た者が語るのだ。

  見ぬ者の声に国を任せるな」


 勝は深く頷き、筆を握った。

 紙の上にまず一文字――「黒」。

 墨が滲み、ゆっくりと広がる。

 それは、恐れでも怒りでもない。

 理へと向かう、最初のしるしであった。



[ちょこっと歴史解説]

黒船来航後、江戸市中では瓦版が飛び交い、異国上陸の噂が民衆の間に広まった。

恐怖と好奇心が入り混じる中、学者や書生たちは“理”でこの出来事を解こうと試みた。

その代表が佐久間象山であり、蘭学と兵学をもって黒船の構造を分析した。

勝麟太郎(のちの海舟)は象山に学び、「見たものを理で語る」という姿勢をこの時期に深く刻み込んだ。

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