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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
2章.暮らし
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010A.美味しいの、その先

「こちら、母より――よろしければと」


そう言って差し出された包みは、

薄紙の下に、きっちり並べられた醤油団子だった。


焦げ目が香ばしく、照りのあるたれが艶やかで。

添えられていたのは、小さな紙にくるまれた柚子の香りの漬物。


「きのう、お若さまが“美味しい”とおっしゃったと伝えましたら、張り切って拵えまして……」


と、近習の少年は少し照れたように笑う。


私は受け取りながら、どう返せばいいかをずっと考えていた。


部屋に戻って、早速ひと串口にした。


ああ、やっぱり美味しい。


柔らかくて、温かくて、

もちの焦げた部分が少しだけカリっとしてて。

この時代の“おやつ”って、すごく素直な味がする。


でも、それだけじゃない。


たぶん私は、味よりも、気持ちに感動していたんだと思う。


この数週間で、いろんな人に会った。

皆、それなりに親切で、丁寧で、礼儀正しかった。


でも「差し入れ」をもらったのは、はじめてだった。


私に“好きなものがある”って、前提で向き合ってくれたのも、たぶん。


だから、お返しに悩んだ。


物を贈るのが正しい?

なにかを作る?

手紙? 挨拶? お礼の言葉?


でも結局、私は短くこう言うことにした。


「また、美味しいって言える日を楽しみにしています」


数日後、その少年がふたたび膳を運んできたとき、

彼はなにも言わなかったけど、なんとなく空気がやわらかかった。


その日の味噌汁は、ほんのすこしだけ、柚子の香りがした。


気のせいかもしれないけど。

それでも、なんだか悪くない。


気づかないうちに、私はこの世界で“味”だけじゃなく、

人の思いを感じることにも、少しずつ慣れてきているのかもしれない。


そんなふうに思った、冬の午後だった。



[ちょこっと歴史解説]




▪️江戸の食文化ミニ解説(江戸のうまみ手帖):団子と漬物の話

江戸時代、甘いものは今よりもずっと貴重でした。

団子は、庶民にも手の届く“ちょっとしたごちそう”。

とくに醤油だれの焼き団子は、香ばしさと甘辛さで人気があり、

寺の門前や橋のたもと、屋台などで手軽に買うことができました。


団子は「串に刺してある」ことで持ち運びやすく、

忙しい町人や旅人にとっても、ぴったりの食べ物だったのです。


そして、漬物は保存食としてだけでなく、

「食事の締め」や「ご飯を引き立てる脇役」として重要な存在。


なかでも柚子の皮を混ぜた大根漬けなどは、

香りを楽しむ粋な工夫として、武家屋敷でも好まれていました。


こうした“ちょっとした味”にも、

江戸の人々は工夫と気配りを込めていたのです。

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