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JK老中、幕末って美味しいいんですか?  作者: AZtoM183
7.若き老中(構)
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075A. 若き老中(構)ー動き出す図ー

 紙面の上に、墨の線が何本も走っていた。

 川路が引いた案の図、勘定所が整えた表、そして学問所の書生が記した条文案。

 評定所の長卓の上で、それらが静かに重なり、形を得つつある。


 ――まだ、図のままだ。

 しかし、その図の上で、確かに何かが“動いている”。


 老中たちの視線が一点に集まる。

 それは「再び同じことを繰り返さぬための仕組み」。

 倹約の触書でもなく、粛清の命令でもない。

 人が人のために働く余地を残すための構えだった。


 「……勘定所と作事方、それに町奉行の連携は?」

 「一部の反対が強うございます。ですが、川路殿の案なら――」

 「よい。あの者に任せよう」


 口にした瞬間、背後の障子の向こうで筆の音が走る。

 議事を記す手が、確かにそれを“残す”。

 記録が構築を後押しする――そんな感覚を、阿部は初めて覚えた。


 朝から続く会議の空気は重い。

 だがその重みの下に、わずかな温度があった。

 それは、若き者たちの提案が、政の言葉として通り始めた証だった。


 議題がひとつ片づくたび、机上の図面が少しずつずれていく。

 紙の端が重なり、まるで一枚の橋板のように、長卓の上に形を成す。

 その向こうには、まだ誰も渡ったことのない政治の“対岸”がある。


 「橋の上を、もう一度見直そう」

 阿部は静かにそう告げた。


 老中たちの目が、一瞬だけ動きを止めた。

 その視線を受けながら、阿部は心の内で呟く。

 ――橋は渡るものではない。

 人が行き交うために支えるものだ。


 その瞬間、政の“図”は、ただの線ではなく、動き出す構造になった。


[ちょこっと歴史解説]

評定所ひょうじょうしょは、江戸幕府の中枢に位置した合議機関で、老中や奉行が集まり政務を決定する場でした。天保改革後の時期には、政策の体系化や文書管理が進み、川路聖謨のような官僚的才覚を持つ人物が「制度の記録化」に力を注いでいます。

阿部正弘がこの時期に示した柔軟な調整力は、後の“合議による改革政治”の基礎となりました。


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