今夜もベランダで、コーヒータイム
私の住んでいたアパートが、新開発のエリアに含まれてしまい、私は会社近くのマンションに引っ越した。
引っ越して半年。ここは街灯やビルの明かりが少ないおかげで、星が綺麗に見えている。
「あれ、何座かなぁ」
ベランダに出て、マグカップに入ったコーヒーを飲む。
マンションに引っ越してからの、ちょっとした楽しみであり、日課。
「こんばんは。佐々木さん」
「こんばんは、田丸さん。今日は少し冷えますね」
「あそこに見える星座、何ですかね?」
「それ、私も思いました」
ベランダに出てコーヒーを飲んでいると、話しかけてくるのは、隣の部屋に住む、高校教師の田丸さん。
田丸さんもベランダに出て、コーヒーを飲むのが好きらしく、毎晩こうして話ながらコーヒーを楽しんでいる。
「この時期だと、そろそろテストの頃ですか?」
「そうですよ。この時期は忙しくなるので、大変なんですよ」
「なんだか、あの頃が懐かしいです」
「佐々木さんは、どんな思い出がありますか?」
「そうですね……。就職でも進学でも書けるように、検定をいくつか受けていたこと。ですかね」
「それは凄い。優等生だったんですね」
「田丸さんはどうですか? 何か思い出あります?」
「俺は、小説ばかり読んでました。教室の端にいるようなタイプで、友達も少なくて」
「私も多い方ではありませんよ。今度、お薦めの小説教えて下さい」
田丸さんはフフフと笑うと、マグカップに入っていたコーヒーを一気に飲み干す。
「じゃあ、明日は空いていますか? 白波書店というお店なんですけど」
「あのお店ですか。雰囲気が良さそうなので、行ってみたかったんです」
「お好きなジャンルはありますか?」
「ミステリーが好きです。いい年して、学園ものですけど」
「良いと思いますよ。好きなものに、年齢は関係ありません。性別だってそうです」
「田丸さんに言われてしまうと、説得力が凄いですね」
「そうですか? 教師だからかな。時間はどうしましょう。午前中でどうでしょう? 9時とか」
「はい。大丈夫です。楽しみにしてます」
マグカップのコーヒーが無くなれば、今日はもうお開きの合図。
私も残りのコーヒーを飲み干して、部屋に戻った。