第8章「変わりゆく体と深まる絆」
遥はクローゼットの前で立ち止まり、ため息をついた。昨日まで着られていたワンピースが、今日は全く入らない。お腹がぴったりと張って、ファスナーが途中で止まってしまう。
「もう……だめだ」
諦めたように呟いた声に、真奈が顔を覗かせた。
「どうしたの?」
「見て、このワンピース。昨日までは着られたのに……」
遥の潤んだ目を見て、真奈は優しく微笑んだ。
「私も同じよ。ほら」
真奈は自分の着ているブラウスを見せた。ボタンとボタンの間が少し引っ張られ、布地が浮いている。
「最近、どんどん体が変わっていくの。嬉しいような、でも少し寂しいような……」
真奈の言葉に、遥は鏡の前に立った。確かにお腹は日に日に大きくなり、胸も張って、体のラインが変化している。そんな自分の姿に、複雑な思いが湧き上がってくる。
「私ね、こんな風に体が変わっていくの、最初は怖かった。でも……」
遥が言葉を詰まらせると、真奈は後ろから彼女を優しく抱きしめた。
「でも?」
「真奈ちゃんも同じように変化していくの見てたら、なんだか安心できた。二人で同じように大きくなっていくの、すごく不思議で……でも、嬉しい」
真奈は遥の肩に顎を乗せ、鏡越しに二人の姿を見つめる。
「遥ちゃん、すごく綺麗だよ」
「え?」
「だって見て。お腹の形が丸くて、すっごく愛おしい。それに、頬も柔らかくなって……全部が母になっていく証なんだよ」
真奈の言葉に、遥の目から涙がこぼれた。
「私、最近すぐ泣いちゃうの……ホルモンのせいかな」
「ううん、それも素敵なことだよ。私も、遥ちゃんのこと見てると、すぐ泣きたくなっちゃう」
二人は鏡に映る自分たちの姿を見つめながら、くすっと笑い合った。
「ねぇ、マタニティの服、一緒に見に行かない?」
真奈の提案に、遥は嬉しそうに頷いた。
◆
週末、二人で訪れたマタニティショップは、優しい色合いの服であふれていた。
「あ、真奈ちゃん、このワンピース可愛い!」
遥が手に取ったのは、淡いピンク色のワンピース。ウエストのラインが優しく広がり、お腹を包み込むようなデザインだった。
「遥ちゃんに似合いそう。試着してみる?」
更衣室で着替えた遥が出てくると、真奈は息を呑んだ。
「すっごく可愛い……! 遥ちゃん、まるで天使みたい」
真奈の率直な感想に、遥は頬を染めた。鏡に映る自分の姿を見て、少しずつ自信が湧いてくる。
「私も試着してみようかな」
真奈が選んだのは、優しい水色のチュニック。着替えて出てきた姿を見た遥は、思わず声を上げた。
「真奈ちゃん、すっごく素敵! その色、肌の色を綺麗に見せてるよ」
二人は互いの姿を褒め合い、嬉しそうに微笑み合う。体型の変化に戸惑っていた気持ちが、少しずつ暖かな期待に変わっていくのを感じた。
「ねぇ、私たち、これからもっと大きくなっていくんだね」
「うん、でも大丈夫。二人で一緒に変わっていけるから」
真奈と遥は手を繋ぎ、優しく微笑み合った。変わりゆく体への戸惑いは、二人で共有することで愛おしい思い出に変わっていく。そして、その変化は新しい命を育む証として、二人の心をより深く結びつけていくのだった。