第7章「初めての胎動、二つの心が躍る夜」
遥はソファにゆったりと座り、両手をお腹に当てていた。18週目に入り、日に日に大きくなっていくお腹を感じるたびに、新しい命がそこに宿っていることを実感する瞬間が増えた。以前のつわりが落ち着いた代わりに、お腹の重さを感じ始めていたが、その変化がどこか愛おしい。
「ねえ、真奈ちゃん……もうこんなに大きくなったんだよね」
遥がそう言いながらお腹をさすっていると、真奈も近くに座り込み、彼女のお腹にそっと手を当てた。真奈のお腹も同じように丸くなり、二人は自然と顔を見合わせる。
「ほんとだね……お互いに大きくなってきた」
真奈は少し笑いながら、自分のお腹にも手を置いた。触れるたびに、赤ちゃんがこの中にいるんだという現実がはっきりと感じられる。遙の視線は真奈の手に移り、その指の動きがどこか優しくて、見ているだけで心が温かくなる。
「真奈ちゃんのお腹も……すごく綺麗だね」
遥はそう呟いて、少し照れくさそうに微笑んだ。真奈の肌は滑らかで、優しい光を浴びて輝いているように見えた。その様子に、遥の胸は不思議な感動でいっぱいになる。自分たちが今、二人で命を育んでいるのだと改めて感じた。
「ありがとう……遥ちゃんも、すごく綺麗だよ」
真奈はそう言って、遥の顔をじっと見つめた。彼女の目には優しさがあふれ、言葉だけでなく、何かもっと深い感情が伝わってくる。二人は自然と手を取り合い、お互いのお腹をゆっくりと撫で始めた。
「ねえ、もうすぐ赤ちゃんが動くかもしれないよね……そう思うと、なんだか緊張しちゃう」
遥は少し緊張した表情で言った。真奈は、遥の手のひらの温かさを感じながら、静かに頷いた。
「そうだね……どんな感じなんだろう。少し怖い気もするけど……楽しみだね」
二人はしばらくの間、無言でお互いの手を握りしめたまま、これからのことを考えていた。そんなとき、ふと遥が息を呑むように小さく声を上げた。
「今……今、感じたかも!」
遥の声に驚いた真奈は、すぐに彼女のお腹に手を当てる。遥は目を見開き、初めて感じたその小さな動きに、心がドキドキと高鳴っていた。
「ほんとに? どんな感じだった?」
真奈も興奮した様子で遥のお腹に耳を当てようとしたが、まだ外からは感じられない。でも、その喜びは二人で共有できているような気がした。
「なんかね、ほんの少しだけ……トントンって感じで……まだすごく弱いけど、たしかに動いた気がするの」
遥の声は震えていたが、その顔は喜びに満ちていた。真奈はその顔を見て、心が熱くなるのを感じた。彼女はそっと遥の肩に手を回し、二人で静かにその瞬間を噛み締めた。
「すごい……私も早く感じたいな……」
真奈はそう呟きながら、自分のお腹を優しく撫でた。その時、突然彼女も微かな感覚を覚えた。驚きに息を呑み、すぐに遙の手を握りしめる。
「……動いた!」
二人は目を見開き、笑顔が自然にこぼれる。初めての胎動。それは小さくて儚い動きだったけれど、その瞬間が二人にとって何よりも大きな喜びだった。
「お互いに……感じたね」
遥はそう言って真奈の顔を見つめた。二人の目には涙が滲んでいたが、それは悲しみや不安ではなく、感動と喜びが溢れ出たものだった。
真奈は遥の頬をそっと撫で、二人の顔が近づく。お互いのお腹に新しい命が宿っているという実感が、二人の絆をさらに強くしていた。
「私たち、本当にすごいことをしているんだね」
遥はそう呟き、真奈の肩に頭を預けた。真奈もその言葉に深く頷き、二人は静かに目を閉じた。お互いのお腹を優しく撫でながら、これから迎える新しい命との生活を思い描いていた。
二人の心は、まるで一つになったように穏やかで温かかった。それぞれが感じた初めての胎動は、これから始まる家族の物語の一歩であり、その瞬間が二人にとって永遠に大切な思い出となることだろう。