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第4章「二人分の試練」

 朝の光がカーテン越しに差し込むリビング。けれど、その光さえも遥には眩しすぎた。体がだるく、胃の中がかき混ぜられるような気分に耐えきれず、彼女はソファに横たわったまま、深いため息をついた。もう5週目に入ってから、ほとんど毎日こうだ。つわりがひどくて、少し食べることも水を飲むことも辛くなってきた。


「遥ちゃん……」


 隣に座っていた真奈が心配そうに覗き込む。彼女もまた、つわりに苦しんでいたけれど、今日は遥の方が明らかに辛そうだった。真奈は遥の手をそっと握りしめる。その手は温かく、少しだけ安心感を与えてくれる。


「ごめんね、真奈ちゃん……私ばっかり弱音吐いて……」


 遥はか細い声で呟いたが、真奈はすぐに首を横に振った。


「そんなことないよ。私も同じだから……今日は私が少し元気なだけ」


 二人はどちらがより苦しんでいるかを比べることなどなく、ただお互いを支え合ってきた。けれど、つわりの時期が同時に来たことで、予想以上の辛さが二人に押し寄せていた。


「……何か食べられそうなものあるかな」


 遥はお腹を抑えながら、少しだけ顔をしかめた。食べないと体がもっと弱ってしまうのは分かっているけれど、何を口にしても胃が受け付けない。真奈はそれを見て、冷蔵庫を思い出しながら少し考えた。


「どうかな……前に作ったお粥とか、少しなら食べられるかな?」


 真奈は慎重に言葉を選びながら、提案してみた。あのときは二人とも少し口にできたから、今日も大丈夫かもしれない。遥は小さく頷き、真奈に任せることにした。


 真奈は立ち上がり、キッチンに向かう。すぐに冷蔵庫からお粥の容器を取り出して、少し温める準備をする。その間も、彼女の胸の中には遥に対する思いやりが溢れていた。彼女がこんなに弱っている姿を見るのは辛い。けれど、遥が自分を信じて頼ってくれることが、同時に嬉しくもあった。


 温め終わったお粥を小さなボウルに入れ、スプーンを添えて、真奈は戻ってきた。


「無理しなくていいよ、少しずつで……」


 真奈が優しくそう言って、スプーンを遥に差し出すと、遥は震える手でそれを受け取った。彼女はゆっくりと一口を口に運び、少し顔をしかめる。でも、吐き出さずに何とか飲み込んだ。


「ありがとう……真奈ちゃん」


 遥は感謝の気持ちを込めて微笑んだが、その顔にはまだ疲れが残っている。真奈はそんな遥の髪をそっと撫で、彼女の頬に優しく触れた。


「頑張ってるね、遥ちゃん……本当に偉いよ」


 その言葉に、遥の目が少し潤んだ。涙が溢れそうになりながらも、真奈の優しさが胸に沁みる。


「私、真奈ちゃんがいてくれて本当に良かった……」


 遥は真奈の手を握り返し、その温かさに癒される。こんな辛い日々でも、真奈がそばにいることで救われる瞬間がある。そして、それはお互いに感じていることだった。


---


 夕方、二人は並んでベッドに横たわり、静かに過ごしていた。二人とも同じように疲れきっていて、話すこともなく、ただ手を繋いでいるだけで十分だった。つわりの波が収まった時だけ、少しだけ平穏な気持ちが訪れる。


「ねぇ、真奈ちゃん……私たち、本当にこの子たちをちゃんと育てられるのかな」


 遥がぽつりと不安を漏らすと、真奈は少し驚いた顔で彼女を見つめた。自分も同じようなことを考えていたけれど、言葉にするのは少し怖かった。でも、遥がそれを口にしたことで、彼女もその不安を共有することができた。


「私もね……時々不安になるけど、でも、二人だからきっと大丈夫だよ」


 真奈はそう言って、遥の額に軽くキスをした。二人はお互いを支え合うことで、どんな困難も乗り越えられると信じていた。だから、たとえ今が辛くても、その先には必ず喜びが待っているはずだ。


---


 その夜、二人はまだ少し体調が優れないまま、静かな夜を過ごしていた。窓の外で風が優しく木々を揺らす音が聞こえる。


 真奈は遥の背中にそっと手を置き、その柔らかい感触に安心感を覚えた。遥はその温かさに包まれ、少しだけ眠りにつくことができた。これからも二人は共に歩み、支え合いながら、新しい命を育んでいくのだ。


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