第18章「最後の喧嘩は愛の証?」
真夏の日差しが部屋に差し込む午後、遥は疲れた様子でソファに座っていた。大きくなったお腹のせいで、動くのも一苦労になってきている。そんな中、真奈が買い物から帰ってきた音が玄関から聞こえてきた。
「ただいま……って、遥ちゃん、まだそんなところで寝てるの?」
真奈の声には、少し苛立ちが混ざっていた。遥も最近の真奈の口調の変化が気になっていて、思わず反発するような気持ちが湧き上がる。
「だって、お腹重いし……それに、真奈ちゃんだってずっとソファで休んでることあるじゃない」
「私は必要な時だけよ。遥ちゃんは最近、何でもかんでも『お腹が重い』って言い訳にして……」
真奈の言葉に、遥の目に涙が浮かぶ。
「言い訳なんかじゃないもん! 本当に辛いの! 真奈ちゃん、最近冷たい!」
「私だって辛いのよ! でも、誰かがしっかりしないと……」
真奈の声が震えている。二人とも、これまでにないような激しい感情に突き動かされていた。
「しっかりって……私、何にもできてないみたいじゃない。真奈ちゃんは完璧なの?」
「完璧なわけないでしょ! 私だって不安で仕方ないの! でも……」
真奈の言葉が途切れた瞬間、二人のお腹で同時に強い胎動を感じた。その予想外の出来事に、二人は息を呑む。
「あ……」
遥が小さく声を上げると、真奈も思わずお腹に手を当てた。まるで子供たちに叱られているような感覚に、二人は顔を見合わせる。
「双子ちゃんたちに怒られちゃったね……」
遥の言葉に、真奈の表情が柔らかくなる。
「そうだね。私たちの方がしっかりしないといけないのに、この子たちの方がずっとしっかりしてるね」
真奈はそう言って、遥の隣に座った。二人の間に流れていた緊張が、少しずつ解けていく。
「ごめんね、遥ちゃん。私、最近すごく神経質になってて……」
「私もごめんね。真奈ちゃんに頼りすぎてた」
遥は真奈の肩に頭を寄せた。真奈の柔らかな髪の香りが、心を落ち着かせてくれる。
「でも、不安なの……これからどうなるんだろうって」
遥の正直な気持ちに、真奈も小さく頷いた。
「私も不安。でも、二人でいれば、きっと大丈夫」
真奈は遥の頬を優しく撫でる。その指先の温もりに、遥は目を閉じた。
「真奈ちゃん、やっぱり優しいね。さっきまでの怖い顔が嘘みたい」
「もう! 私だってあんな顔したくないのに……」
二人は小さく笑い合う。真奈は遥の大きなお腹を優しく撫で、遥も真奈のお腹に手を伸ばした。
「ねぇ、この子たち、私たちの喧嘩を心配してくれたのかな?」
「きっとそうだよ。四人とも、もう私たちのことを見守ってくれてるんだね」
真奈の言葉に、遥は温かい気持ちになった。彼女の横顔を見つめると、長いまつげが優しく揺れている。真奈の存在そのものが、遥にとっての安心感だった。
「これからも喧嘩することあるかもしれないけど……」
「その時は、また子供たちに叱ってもらおうね」
二人は手を重ね合わせ、お腹の中の命の鼓動を感じながら、静かな時間を共有した。窓から差し込む夕暮れの光が、仲直りした二人の姿を優しく包み込んでいた。