第12章「赤ちゃんへの贈り物」
遥と真奈は、リビングに並んで座っていた。目の前には色鮮やかな絵本が広げられ、柔らかい光が差し込む部屋は穏やかな静けさに包まれている。遥はお腹を撫でながら、優しい声で絵本の一節を読み上げた。
「『ねずみのチューちゃんは、大きな木の下でお友達を待っています』……ねえ、真奈ちゃん、可愛いよね、この絵本」
遥が振り返ると、隣にいた真奈は微笑んでいた。彼女もお腹に手を当てて、優しく撫でている。
「うん、可愛い。赤ちゃんも喜んでくれてるかな?」
「きっとね。お腹の中で聞いてるはずだよ……」
遥は絵本をそっと閉じて、真奈の方に寄り添った。ふとした瞬間、真奈の顔がふわっと優しさに満ちているのを見て、彼女の愛情深さに胸がじんわりと温かくなる。お腹を優しく撫でる真奈の仕草も、どこか母性に溢れていて、遥はその姿にいつも癒されていた。
遥は、真奈の肩にそっと頭を乗せる。そして、言った。
「ねえ、音楽も聞かせてあげたいな。赤ちゃんに」
「うん、バイオリンとピアノ、ちょうどいいかもね。私たちが弾いてあげよう」
二人は立ち上がり、真奈はリビングの隅に置いてあるピアノの前に座り、遥はそっとクローゼットからバイオリンを取り出した。静かな夜の空気に、バイオリンの音色が柔らかく響き始める。遥の指が弦をなぞり、優しく、そして深い音が流れ出す。その音は、まるでお腹の赤ちゃんに話しかけるように優雅だった。
真奈はそれに続いて、ピアノを弾き始めた。彼女の指が鍵盤の上を滑らかに走り、バイオリンの音色と調和する。二人の音楽が一つに溶け合い、部屋全体が音で満たされていく。
「綺麗……真奈ちゃん、ピアノ上手だよね」
遥はバイオリンを弾きながら、真奈の演奏に聴き入っていた。真奈の指先が生み出す音には、どこか繊細さと力強さが同居していて、遥の心にじんわりと響いてくる。
「ありがとう、でも、バイオリンもすごく素敵だよ。二人で一緒に演奏できるなんて、なんだか夢みたい」
真奈は顔を上げ、微笑みながら遥を見つめた。その目には、はっきりとした愛情が込められていて、遥は胸が高鳴るのを感じた。二人が奏でる音楽は、彼女たち自身を表すように、優しくて温かい。
演奏が終わり、静けさが再び部屋を包むと、遥はバイオリンをそっと置き、真奈の方に歩み寄った。
「赤ちゃん、喜んでくれてるかな?」
遥は真奈の前に立ち、彼女のお腹に手を置いた。お互いの膨らんだお腹を感じながら、そっと撫で合う。
「うん、きっと喜んでる……なんだか、私たちの音楽が赤ちゃんに届いてる気がする」
真奈も遥の手に自分の手を重ね、二人はしばらくの間そのまま立っていた。お腹の中で小さな命が育まれているという実感が、彼女たちの心をさらに強く結びつけていた。
「ねえ、真奈ちゃん……赤ちゃんが生まれたら、もっとたくさんの音楽を聞かせてあげようね」
「うん、二人で一緒に育てようね……音楽も、絵本も、たくさんの愛も」
二人はお互いを見つめ、微笑み合った。その瞬間、彼女たちの絆がさらに深まったように感じられた。二人の愛情は、これから生まれてくる赤ちゃんにも、しっかりと伝わっているに違いない。