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第1章「同時に響いた、小さな鼓動」

 リビングのソファに並んで座りながら、遥はそっと真奈の手を握った。二人の指が自然に絡み合う。テレビの音が遠く聞こえるけれど、二人の間には別の静かな緊張感が漂っていた。診療所から帰ってきたばかりで、まだどちらもその現実をどう受け止めていいのか戸惑っていたのだ。


「……私たち、同時に妊娠したんだね」


 遥が静かに呟いた。その言葉が部屋に響いて、真奈も小さく頷いた。二人が人工授精を受けたのはほぼ同じタイミングで、それぞれが自分たちの子供を産むための決意を固めていた。それが、まさか二人同時に成功するなんて……。


「うん、奇跡みたいだよね……」


 真奈の顔には、驚きと少しの不安が混じっている。彼女はお腹をそっと撫でながら、ふと遠くを見つめた。二人とも望んでいたことだけれど、実際にその瞬間が訪れると、急に現実が押し寄せてくる。


「真奈ちゃん、どう? 実感わいてきた?」


 遥は少し心配そうに尋ねる。二人はいつもお互いを支え合ってきたけれど、今回の妊娠は新たな段階への一歩だった。真奈はそんな遥の問いかけに、優しい笑みを返した。


「正直、まだ少し怖いかな……。だけど、嬉しいよ。二人とも妊娠してるなんて、なんだか信じられないよね」


 その言葉に、遥も笑顔で応じた。確かに、これからは二人とも母になる。そして、一緒に育んできた愛の形が、今度は新しい命として実を結ぶのだ。


---


 その日、二人は近所のスーパーに出かけた。これまでも何度も一緒に来ていた場所だけれど、今日は少し違った空気が流れていた。二人ともお腹に新しい命を抱えていることが、何か特別な感覚を与えていたのかもしれない。


 買い物カートを押しながら、真奈がふと足を止めた。周囲の視線が少し気になっていたのだ。同性婚をしていることを公にしてから、二人には常に好奇の目が向けられていた。それでも、今日の視線は少し違う。どこか好奇心だけでなく、興味深げに観察されている感じがする。


「ねぇ、遥ちゃん……やっぱり、周りの視線って気になるよね」


 真奈は少し不安そうに遥に話しかけた。遥はそれを感じ取って、軽く肩に手を置いた。


「大丈夫だよ、真奈ちゃん。私たちがどう思われるかなんて関係ない。大事なのは、私たちが幸せでいることだよ」


 その言葉に真奈は安心したように微笑んだ。二人はこれまでも、他人の意見に左右されることなく、自分たちの道を歩んできた。今回も同じだと信じている。


---


 夕方、二人はベッドに横になりながら、静かに話し合っていた。リビングの暖かな照明が部屋を柔らかく包んでいた。


「ねぇ、遥ちゃん。これからどうなるんだろうね、私たちのお腹にいる子たち……」


 真奈がそう尋ねると、遥は優しく彼女の髪を撫でた。その動作が自然で、二人の間には深い愛情が流れている。


「どうなるか分からないけど、きっと素晴らしいことになるよ。だって、私たちが一緒に育てるんだから」


 真奈はその言葉に、少し涙ぐんだ。自分たちがこれから母親になることへの期待と不安が入り混じって、感情が溢れ出しそうだった。


「ありがとう、遥ちゃん。あなたがいてくれて本当によかった……」


 二人はしばらくの間、互いの手を握りしめながら静かに目を閉じた。周りの世界がどんなに騒がしかったとしても、二人だけの空間には穏やかな安らぎが広がっていた。


---


 その後も、二人は一緒に妊娠生活を送りながら日々を過ごしていった。スーパーで感じた視線や、街での周囲の反応が時折気になることもあったが、それ以上に二人の絆はますます深まっていった。


 二人が一緒にベビー服を選んでいる時、遥がふと手に取った小さな洋服を真奈に見せた。


「これ、かわいいよね? 男の子でも女の子でも似合うよ」


 真奈はその服を見つめ、柔らかく笑った。


「うん、すごくかわいい……なんか、赤ちゃんがこの服を着ている姿が想像できるね」


 その言葉に、遥は同意しながら真奈の手を握った。これから二人で迎える新しい命に対しての期待が膨らんでいく。そして、そんな未来を二人で共有できることが、何よりも嬉しかった。


 これから何が待っているか分からないけれど、二人ならどんな困難でも乗り越えられる。周囲の目がどうであれ、二人は確かに愛し合い、支え合っていた。そして今、その愛がさらに大きな形で実を結ぼうとしているのだ。


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