内通者
エクスプレスはペイジー駅を過ぎ間もなく目的地のロック駅へ。
お屋敷に戻る前に少々寄るところが……
マーガレットは新人メイドのマーガラとして潜入。
「ボノ様がご主人様の密会に気づいたのも恐らく彼女から」
「ああ今更隠す必要もないからな。そうだマーガレットから聞いたよ。
そして酷く傷ついた」
大げさに言うが自分は毎日のようにメイドと戯れていた。傷つく暇はないのでは?
確かにセピユロスとの密会は衝撃的でしょうが。それも彼から始めたこと。
ううん実際はヴィーナが言いつけを守らず来なかったから彼が代わりに……
もう過去の話ですが。
「最初はマーガレットが何を言ってるのか分からなかったよ。彼女は部外者。
私よりも屋敷の事情に精通してるはずがないと。ただの可愛らしいおふざけだと。
でも違った。具体的にセピユロス君の名を出し、事細かに語って見せるその態度。
確かめる価値は十分にあると思った。
それで実際セピユロス君がディーテのところへ通うものだから確信した。
二人は密会してる。私を裏切ってる。その上ヴィーナを悲しませている。
混乱したよ。だから離婚を迫ったりもした。あの時は苦しくて苦しくて」
ボノが苦しい胸の内をさらけ出す。
「白々しい! あなただって私に隠れてメイドと戯れていたじゃない! 」
「君は娘の婚約者に手を出したんだぞ? 」
「だからそれはセピユロスが! 」
「まあまあ。お二人とも落ち着いてください。これでは話が前に進みません。
夫婦喧嘩は今度の件が片付いてからゆっくりやればよろしいかと」
影のメイドが止めに入る。
今まではセピユロスが間に入っていたがさすがに今回は当事者。動きが鈍い。
仕方ない。この話は一旦保留にしてボノを問い詰めるとしますか。
ただ一つ気になるのはどうやってマーガラが私たちの密会を知り得たのか。
彼女はまだ新人でお屋敷の外を担当していた。
確かにお屋敷への出入りも可能だったでしょうがそう簡単に情報収集は出来ない。
噂レベルの話をボノに持ってきたとも思えないし。
影のメイドが言うように内部に裏切者が?
「他にマーガレットから何を? 」
「そうだな…… 鉱山の場所を見つけて欲しいと頼まれたぐらいだな」
ほら抜け目のない。ボノに教えなくてよかった。
実際彼はそれほど金に目が眩むタイプではない。
メイドに現を抜かすただの女好き。野心を持ち合わせていない。
今の生活に満足している。
時に両方を欲する欲張りが存在すると聞きますがボノは違う。
「まさかあなたが嫉妬に狂って私たちの関係を屋敷中に広めたの? 」
ボノが怪しい。突如、求心力を失ったのもあの噂があったから。
私はその話をヴィーナから聞いた。セピユロスが密会していると。
「いや違う! それは誤解だ! 」
「だったら誰が? 」
「知るかよ! 勝手に人のせいにしないでくれ! 」
「何ですって? 」
またしても険悪な雰囲気になる。
「まあまあ落ち着いてディーテ。見られてますよ」
大声で罵り合ったものだから乗客の視線が刺さる。
セピユロスが止めなければ恥をかくところでした。
「噂を広めたのはマーガレット自身だと思います。それが一番自然ですしね」
影のメイドには確証があるらしい。
この際噂はどうでもいい。問題は一体誰と内通していたのか?
これが最大の謎。
「あなたはまだ正体を掴んでないんでしょう? 」
影のメイドならとは思うがさすがに無理な注文か。
「申し訳ありませんご主人様。私の力でも誰かまでは……
マーガレットは慎重ですから決して尻尾を掴ませません。それが一流の仕事」
さあ誰が裏切者?
それさえ分れば陰謀に立ち向かえるのだが。
裏切者の正体は如何に?
「やっぱり執事じゃないかな」
セピユロスは執事によって囚われたことをまだ根に持っている。
意外にも執念深く小さい男なのかもしれませんね。
「別に恨みからと言うのではなく何となく変だなと」
少々トンチンカンな正直者のセピユロスは今の気持ちを隠すことなく打ち明ける。
「だからどこが変な訳? 具体的に指摘しなくてはただの勘になるでしょう? 」
執事は私に尽くしてくれた。最近行動を共にしてるからかボノの味方する場面が。
「そうだねディーテ。例えば私を見る目かな。汚らわしいものを見る目をしてた」
話を聞いても大して共感できないのはなぜでしょうか?
「囚われた時も一切話を聞かずに強引に」
「うーん。それも当然でしょう。言いがかりよそれは」
どうしても執事を首謀者にしたいセピユロスを宥める。
「彼とはよく話し合ってる。息子のことも認めてあげました。
彼が私を裏切る理由がないじゃない」
一体何に不満があると言うの?
あの執事が裏切るはずがない。
続く