牧場
ボノは生きていた。しかもボロの家に姿を隠していた。
さあ後は無警戒のボノを出迎えるだけ。
意外にもボロから歓迎を受ける。
男の方のダイナミックな料理とは言え久しぶりのご馳走に涙が出そうになる。
ああ、もうこの際ボノのことはどうでもいい。
また夜お邪魔させてもらえるだけで夢のよう。
おっと…… これはいけない。目的を忘れるところでした。
「どうしたのディーテ? ぼうっとして」
「いえ何でもありません。ボノが見つかって嬉しいんです」
これで報われる。私たちが逃避行した意味があった。
それだけではなく意向を無視した無謀なセピユロスの救出作戦にも言い訳が立つ。
これでいい。これでいいんです。
あのまま事の成り行きを見守っていればセピユロスは無実の罪で処刑されていた。
私もいつの間にか追放され皆バラバラになっていたでしょう。
真実が見えてくれば陰謀に立ち向かうことができる。
牧場に寄ることに。
本当は嫌なんですがセピユロスのたっての希望。お誘いも受けてるので仕方なく。
ボノが姿を見せる夜まで時間もありますしせっかくだから。
「おお! あんたら来たかい! 歓迎するよ。好きにして行きな」
触れ合いもあるそうだが馬は大の苦手。遠くから眺めるだけで満足。
「ディーテ! 」
手を振ってバランスを崩しそうになるセピユロス。
乗馬は得意と言っていたのに…… はしゃぎ過ぎです。
理想の白馬の王子様像が崩れてしまう。
結局何度も乗るセピユロス。
好意で乗せて頂いたのに調子に乗って二度も三度も。
ああ…… 恥ずかしい。
本当に男の人って馬が好きなんですね。私にはちっとも分からない。
そんなセピユロスは馬だけでなく釣りもハンティングも。
私には理解できませんが。
セピユロスの子供のように騒ぐ姿を見ていると癒される。
まったく本当に子供なんだから。ふふふ……
無邪気に手を振るセピユロスに仕方なく手を振り返す。
これではまるで親子みたい。ふふふ…… 嫌になる。
「ねえ本当に乗らないのかい? 楽しいぞ」
男に強く勧められる。
せっかくのお誘いですが嫌なものは嫌。
どうしても拒否反応が出てしまう。
実際は馬が苦手なのではなく昔から馬を使った演舞がどうも……
「申し訳ありません」
ご好意を無下にしたくない。でも無理なものは無理なのです。
「いやいいよ。それよりもあんたって有名人? どこかのご婦人? 」
いきなり核心を突くような質問をする。まさか私の正体を知っている?
「実はよう。昨日一緒になった女が居たろ。あんたの隣に座ってた人」
確かメモを拾ってくれたり笑ったりとにかく私を気に掛けてくれた方がいた。
「はい覚えてます。その方がどうかしましたか? 」
「あんたがどこ行ったか聞いてくる訳。しかも知らねいと言うのに何度も何度も。
気持ち悪いんでその辺にいるだろって適当に答えたがどうもな」
怖いだろうとからかう。
「ちょっと待ってください。その方は地元の人では? 」
いつも乗り合わせてるなら特に問題はない。気にするようなことでもないはず。
「いや一度も見たことがない。近所の奴なら覚えてる。だから余計気になってな」
どうしたものかと頭を掻く。
相当不気味な話。
私に狙いをつけていたとすれば急いでこの場を離れるべき?
「たぶん駅から乗って来た方だったような」
「そうなのか。俺は覚えてないがな」
謎の女の正体は?
これはどう見ても追手に思えるが。
急がなくてはいけません。
ボノを見つける前に捕まっては元も子もない。
ただボロの証言があればボノの悪行も知れ渡るはず。
そして国王様がどう判断するか。
さすがに問題なしにはできないでしょう。
「その方は何か言ってませんでしたか? 」
「かなり危ない話をしていたような…… 主人がどうとか」
「主人ですか? 」
「ああ済まん。呼ばれたわ。ゆっくりしていってくれ」
男はそう言うと走って行ってしまった。
「ねえセピユロス。ちょっといい? 」
今の話を伝える。
「うーんどうだろう? 確証はなさそうだ。ただ警戒に越したことはないよ。
これ以上目立つ動きは避けよう」
夕方までじっとしてることに。
日も暮れ始めた。
結局例の女性が姿を現すことはなかった。
女性の話はただの男の勘違いでしょう。
追手もまだのようですしね。
ではそろそろお邪魔するとしましょうか。
続く