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到着

甘えん坊のセピユロスに手を焼く。

「ディーテ疲れたよ」

泣き言を言っても無視無視。

お嬢様とお付きの者だったはずなのに。今度は親子の振りでもするつもり?

「腰が痛くなっちゃったよディーテ」

しつこく話しかける。だから目立たないように静かにしてなさいって。

本当に甘えん坊のセピユロス。名前を呼んでは変装の意味がないじゃない。

確かに腰は痛いですけどね。それこそ我慢でしょう?

私たちは逃避行中の身。これくらいどってことない。

これからもっと辛いことが待ち受けてる。

少なくてもボノの件で。セピユロスだってヴィーナに関しても。

考えるだけで頭が痛くなる。問題山積。

だからこそまだ警戒心を解いてはいけないのです。


「ああ君たちは旅行者かい? 馬に興味がある? 」

セピユロスが得体のしれない男に話しかけられている。

駄目ですよ。余計なことを教えては大変なことに。

どうも話しぶりでは牧場の人らしい。ならば安心でしょうか?

いえいえその油断が命取り。あくまで追われる身。

警戒しないに越したことはない。


「そちらのお連れさんは馬に興味は? 」

セピユロスは馬に興味があるらしい。

当然か。白馬の王子様ですものね。ぴったり。

ですが私はちょっと……

「ごめんなさい。苦手なんです」

再び笑いが起こる。

嘘でもないしおかしくもない。私は昔から見るのも乗るのも大の苦手。

小さい頃は嫌いではなかったのにいつの間にか受け付けなくなってしまった。

そう言えばお母様も馬嫌いだった。これは遺伝かしら? それとも伝統?


どうして皆さん笑うのかしら? すぐに否定するのは失礼だった気もしますが。

これも仕方がないこと。苦手なものは誰にだって。

でも話を合わせても良かった気もする。少々大人げなかったかしら。


「ははは…… 正直でいいね。俺も昔は苦手だったよ」

「嘘…… 」

つい口から本音が。

「いやいや嘘じゃない。俺は克服したのさ。まあいいやあんたも楽しんでいきな」

「本当によろしいですから。遠慮なく」

隣の女性が堪えきれずにクスクスと。

「ごめんなさい…… 」

この人本当にどこかで見たことがあるのよね。

それとなくセピユロスに確認するしかない。


目的地手前で親切な女性が降りる。

警戒するもどうやら思い過ごしだったよう。

乗り合い馬車は登り坂を登っていく。

最後の踏ん張り。

こうして山奥にある牧場に到着。


問題はこの後どうするか?

辺りはもう暗くなりつつある。

今日は遅くなったし明日改めてボロの家に伺うのがいい。

急ぐ旅ではない。

もちろん早いに越したことはありませんがそれでも焦ってはいけない。

ここは慎重に。タイミングを見計らって。

問題は追手との距離。

まさかもう囲まれてるなんてことないでしょうけどね。


セピユロスが宿泊の手配を済ませてくれた。

本来だった野宿も視野に入れなければならないところ。

上手く行けば空き家に潜り込むことも。

知り合いになったばかりのあの方のお世話になっても良かった。

セピユロスと逃避行すると決めた時から野宿でも何でもする覚悟はしていた。

でも実際選びたいとは思いません。


「ぼろくて狭い部屋だけど清掃は行き届いてるからディーテも心配ないと思うよ」

勝手に決めてと叱り飛ばしたいところですが私を思ってのこと。

遠慮せずに伺うとしましょう。どのような部屋かしらね。

木で作られたコテージなるものらしい。

うん香りがする。それから獣臭い。

これは恐らくチャウチャウ。

犬か猫でしょうか? 染み込んでいる。


「ああこれは馬の匂いだよ」

「うわああ! 」

また馬? 本当に嫌になる。

ここだって二人では狭い。隠れ家よりも狭いくらい。

まさか拷問部屋ではありませんよね?

「ディーテ。これでもいい方だよ。馬小屋で寝ることも考えたんだからね」

「いや! 絶対にいや! 」

拒否反応を起こしてしまう。

「もしかして馬が苦手なのかい? 」

そんな甘いものじゃない。

昔からの嫌な記憶が蘇る。

「絶対に近づきたくない! 」

「ちょっと待ってよディーテ。ここには馬とヤギとかぐらいしかいないよ」

何と言っても牧場。そんなことは百も承知。

でも嫌なものは嫌。苦手なものは苦手。

自分に嘘をつけない。


「それでセピユロス。お食事はどうしますか? 」

昼も結局食べられずに来てしまった。

慣れない旅で初めてのことばかり。

当然お腹が空いている。


                続く

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