目立つ格好
狭い車内ではどうしても目立ってしまう。
自覚がないとは言いません。ですがこれほど殿方を惹きつけるとは。
男女問わずに話し掛けられては悪い気がしない。
でもこれは逃避行ですからやはり目立ってはいけません。
こんなにも惹き寄せるには何か理由があるのでしょうか?
うーん思い当たる節がない。
服だってみすぼらしいメイド服です。帽子で変装もしてますし。
やはりこの真珠の首飾りが惹きつけるのかしら?
それともご主人様のオーラ?
「済みません。ちょっとよろしいですか? 」
ハットを外し深々と挨拶をする老紳士。
「どのようなご用件でしょうか? 」
「つい見惚れてしまいました。どうでしょう。私と旅をしませんか? 」
これは思ってもみない誘い。老紳士なら決して悪くない。
セピユロスをチラッと見る。当然首を振る。
大丈夫。もちろん心得ていますよ。
「申し訳ありません。連れがいるものですから」
「ああ…… これは申し訳ない」
老紳士はセピユロスのことが目に入ってなかったよう。
実際そのように振る舞ってきましたからね。誤解を与えてしまったみたい。
彼にとってはまたとないチャンスを逃したことになる。
あらあらお可哀想。
「ではその美しさを記念して一枚よろしいですか? 」
一方的に迫るがまあ一枚ぐらいいいでしょう。
逃避行中の身とは言え紳士を惹きつけてしまう私が罪深いのですから。
満足したのか行ってしまわれた。
ふうもうこれくらいで勘弁してよね。
今度は気楽にお嬢さんが話しかけて来た。
何かと思えば真珠の首飾りに興味津々。
「これお高いんでしょう? 」
「いえこれは主人からのプレゼントですから分かりません」
「きゃああ! 凄い! 」
大げさに騒ぐお嬢さんと言うか町娘。
年はヴィーナよりも上かな。
喜んでくれたお礼に差し上げてもよろしいのですが逃避行の身。
彼女の首に掛けてあげる。満足するまで貸すことに。
少々不用意だったかしら?
セピユロスは首を振るばかり。
大丈夫でしょう。ここはエクスプレスの中。逃げることもない。
「ありがとうございますお姉様」
満足して礼を言いどこかへ。
「ディーテ! 」
「名前を呼んではなりません」
「お嬢様! 先ほどの件はいただけませんね」
まるで執事のよう。
「分かってます。ついヴィーナやメイドたちのことを思いだして」
「それを言われると…… 」
カーブに差し掛かる。
「きゃああ! 」
「大丈夫ですか? 」
セピユロスに抱きとめてもらい危機を脱する。
ふう危なかった。
エクスプレスが大きく揺れもう少しで転倒するところだった。
「まだ? 」
「あと十分ぐらいで到着すると思いますお嬢様」
ならば目立たずに大人しくしていよう。
「ちょっと…… 」
今度は目つきの悪い女性が近づいてきた。
上から下へと食い入るように見る。
どこかおかしかったかしら?
「あらあなたそんなみずほらしい格好して。もう田舎者はこれだから」
嫌味を言われてしまう。
「ちょっと失礼ね! 」
なるべく大人しく。自分に言い聞かせるもご主人様としてのプライドが許さない。
「あなたそんなメイド服を着て恥ずかしくないの? 」
変装の為にメイド服を着用したがそれが仇になった形。
この人は服に厳しい方なのでしょう。
別にいつも着てるのではないのですが。
「あらごめんなさい。私はアミン。お屋敷で着る分には問題ありません。
ですが自分の身分が分かるよなものを着て外を出歩くなんてなってませんわ。
しかもエクスプレスでしょう。おかしいとは思わないの? 」
メイド服はあくまで室内用。外では相応しくないと指摘する。
でもこれは仕方ないこと。
普段の格好では目立ちすぎますから。逃走するならと選んでしまった。
おかしいな。セピユロスは何も言ってなかったのに。
「ほら何か上に着なさい。そうすれば恥ずかしくない」
助言を聞くが生憎何も持っていない。
「ありがとうございます。後で買いますので」
「そう。お節介だったかしら。でもこれもあなたの為よ。それでお名前は? 」
しまった…… 自己紹介されたら名乗らない訳にはいかない。
続く