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ペイジーでの二人

ペイジー。

交流の盛んなロックへ向かうと見せかけてペイジーに逃れた。

追手を撒くための作戦。果たして上手く行ったでしょうか?


セピユロスの故郷エイドリアスは隣の隣の村で西方に位置する山奥の村。

その間の村がロック。名前の通り険しい山が広がる。

ロックはここ十年で急激に発達しエクスプレスの駅が出来たほど。

お茶会でも話題になるぐらい。

ペイジーは反対の町で屋敷の東方に位置する。

何と言ってもペイジーの南端には港がある。

一気に港まで行きセピユロスと遠い異国の地へ。


二人手を取り合って新たな世界でのんびり暮らすのも悪くない。

しかしそれでは屋敷もメイドたちも見捨てることになる。

ヴィーナにすべてを押し付け自分だけ逃げる。

それではお姉様と変わりない。

お姉様は自由を求め都会に。

私はお嬢様で屋敷を引き継いでからはご主人様に相応しい行動を心がけている。

だからこそ愛着のある屋敷も長年仕えてくれたメイドたちも見捨てられない。


逃げ出す情けないご主人様ではありません。

あくまで港行きは最終手段。どうしようもなくなった時の切り札。

これがあることによって心に余裕が生まれる。

それに大海原に出てどこへ行こうと言うのでしょう?


領内を我がもの顔で歩いたご主人様は今、見知らぬ土地へ。

ペイジーだって話に聞いただけで訪れたのは幼い頃の一回のみ。

確かお婆様に連れられて馬車で。

交流のあった伯爵家令嬢の結婚式に招かれたことしか記憶にない。

随分昔だから彼女だっていくら何でも私を覚えてないでしょう。

仮に覚えていても要求されたら引き渡さない訳にはいかない。

だから頼れるはずもない。


ここはやはりセピユロスに頼りたいところ。

だが今は震えるばかり。

情けない。どうしたと言うのでしょう?

「ほらセピユロス落ちついて」

「だってディーテ。僕たち逃げて来たんだよ? 捕まったら間違いなく殺される。

もう決して許してくれない。うわああ! 」

そう言って取り乱す不安定なセピユロス。

いつもの優しくて冗談を言う自信過剰気味のセピユロスの姿はどこにもいない。

すっかり怯えて顔色も冴えない。


影のメイドに鍵を渡されてからこうなることは分かっていた。

いきなりとは言え心の準備は出来ていた。

はっきり言えばセピユロスを取り戻せたのは幸運が重なっただけ。奇跡に近い。

そのまま二人一緒に捕まっていても何ら不思議はなかった。

そんな困難を乗り越えたからこそ私は強くいられる。


でもセピユロスは違った。

私が迎えに来るとは夢にも思わず最初は拒絶した。

だからもう何が何だか分からずに私に言われるままついてきたのでしょう。

いきなりのことについていけず歩き続けた疲れも相まって沈んでしまっている。

分かりますよその気持ち。私にも痛いほど。

でもあのまま閉じ込められていたら早ければ明日にでも処刑されていたでしょう。

だからこそ二人で脱出するしかなかった。

ただそれを今のセピユロスに言っても無駄。でもこれ以上は限界。

どうかいつものセピユロスに戻って欲しい。


「泣き言を言わない! 誰のためにやったと思ってるの? 」

そう、囚われ身のセピユロスをお助けしに行ったじゃない。

普通逆ですよ。

勇敢な騎士がか弱きお姫様をお助けする。

それが本来の姿。それなのにあなたと来たら…… 

まずいまずい。何をつまらないことを考えてるのでしょう?

こうして自由を手に入れた今、先に進まずにどうします?

つまらない考えは捨てるべき。


「ねえセピユロス。落ち着いて。ほらもう出発する時刻」

そうのんびりしてられない。エクスプレスの時間があと一時間に迫っている。

さあこれに乗ってボロのところに。

「何を言うんだい。ここにいた方が安全だよ。動いたら見つかる」

案外頭の回るセピユロス。ただ臆病なだけにも見えるが。


「セピユロス! 」

勢いよくセピユロスの胸に飛び込む。

もう誰の目も気にせず愛し合える。

「ディーテごめん…… 」

「セピユロス! セピユロス! 」

お調子者のセピユロスが戻って来ると信じ呼びかけるが今はまだ無理らしい。

「今はそんな気分じゃないんだ」

拒絶する元気のないセピユロス。これではこの先が思いやられる。

真剣な表情の影のあるセピユロスも悪くないですがいつもの彼が一番。

早く元の彼に戻って欲しい。


                  続く

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