黒猫はツンデレメイドと共に…
嫌な予感がしたの
魔女見習いが真の魔女になる為の“試練の選択”
お嬢様はその“試練”に……
『自らは求愛せずに、殿方からの求愛によって揺るぎない愛を紡ぐ事』をお選びになった。
その選択の場でお嬢様は……
事もあろうに、あの“呪われたカメオのブローチ”を手になさった……
思い返す度に、自慢の髭が弦の様に弾かれピン!と音が鳴るくらいの大きなため息を!!
私はついてしまう……
思い出されるその光景は……
。。。。。。
「アメリア・リンディ嬢。それが、そなたの選択か?」
グランドマザーのお声に、どよめいていた皆は口を噤んだけど……ご母堂様はハンカチで目頭をお抑えになったわ!!
「はい! 私はここに、私の道を見つけました」
真っ直ぐに背筋を伸ばし、凛として答えるお嬢様……
グランドマザーは頷き、玉座からお下りになられて、その御手で……薔薇の様に輝くお嬢様の両頬をお包みになられた。
「あなたならきっとできます」
そして、グランドマザーは玉座にお戻りになり、高々と宣言された。
「これよりカメオはカメオの主となりカメオの主はカメオとなる。結ばれし契約が成就するまで!」
。。。。。。
こうして私とお嬢様は遠く故郷を離れ“別の者”として……
この別荘のようなこじんまりとしたお屋敷で
こじんまりとしたご主人にお仕えしている。
そう、たった今! 私のため息に勝るとも劣らないほど大きなため息をついたこの御仁だ。
「なあ、黒猫くん。うちのメイド様はどうしてああも能面たらりとしているのだろう?」
なんだが訳の分からない事を言っているが、“アメリアお嬢様”が無表情な事をお嘆きのようだ。
「やっぱりあれかな……ボクが一日中何もせずに呆けているからかなあ」
「んがお」と私は猫語で答える。
「だよなあ……キミですらネズミを取っているというのに」
とご主人はいきなり私を抱き上げる。
ちょっと待て!! 断りも無くレディに手を触れ、しかも『キミですら』なんて侮蔑的な言葉までくっつけて!!
「……ン? キミ、女のコ??」
カチン!!
堪忍袋の緒が切れた私はご主人の手をバリバリと引っ掻いてやった!!
ご主人の手を逃れ、ブルブルっと身を震わすとご主人は座り直してネコの私に丁寧に頭を下げる。
「レディに対し大変失礼いたしました」
ワカニャアいいのよ~ もとい!分かればいいのよ!
「キミもレディなら是非ともアドバイスをいただきたいものだ。どうすればメイドさんは微笑みをくれるかなあ……いや、失礼! 名さえ知らぬキミに……」
このオトコ! 意外と見どころがあるやもしれん。
私は襟ならぬ髭を正して“発語”した。
「私の名はオニキス。アメリア嬢にお仕えする使い魔だ」
ご主人は私がヒトの言葉を操るのを少なからず驚いたようだが、それを務めて表情に出そうとはせず礼節をわきまえた。
「失礼ながらアメリア嬢とは、「メイドさん」の事ですか?」
「さよう! 故あって今の姿をなさっておられる!!」
「あの美しいお姿が仮の姿?? 本性は魔物なのですか?」
「何を失礼な!! 本当のお嬢様はお前などには……」
私は言い掛けた言葉を慌てて飲み込む。
「今のお姿を美しいと感じるのはお前がマザコンだからだ!」
「ボクがマザコン? ボクには母の記憶が殆どないのに……」
「それはだな! アメリアお嬢様の今のお姿が……お前の母君を映したカメオが化身したものだからだ。お前はお嬢様に母君の面影を見ているのだ」
「オニキスさん! 本当にそうなのだろうか? 恋心と母への思慕は同質のものなのだろうか?」
「ネコの私が知る訳がなかろう」
「いや、オニキスさん! そこだけ都合よくネコにならないでくれ! ボクは真剣に悩んでいるんだ!!」
私はニャハハハと笑ったがご主人は微動だにしないので、私は自慢のシッポでその頬をスイっと撫でてやった。
「私の知っている事を少し話そう。お前の父、ヨハン・ベルベーヌは不実を働き情婦コレットとの間に子を成した。
それがお前の弟でベルベーヌ家の現当主アベル・ベルベーヌだ。
お前の母君ルナはヨハンとアベルの謀略と呪いの魔術によって命を落としたのだ。
そしてその子ダニエル・ベルベーヌは……
ベルベーヌ家の長兄であるにも関わらず幽閉されるがごとく領地の最果てに追いやられた。
それがお前だ! ダニー!!」
ご主人は頭を抱えた。無理もない。その身と共に記憶も……魔術によって幽閉されてしまったのだから……
「ダニー……微かだがボクには、そう呼ばれた記憶がある。でも……」
ここまで言ってしまったら、もう忠告するしかない。
「ご主人よ! かつての名もその記憶と共に捨てよ! 過去を追い、恨みを積み重ねると呪いの魔術はお前の体を蝕み、その炎に焼かれ命を落とすぞ!! それは我が主人アメリア嬢をカメオの中に永遠に閉じ込める事になる」
「……ボクはどうすればいい?」
私はご主人の額にポン!と猫パンチを当てた。
「手に鍬を持ち、額に汗して働け! 因みにアメリア嬢は……ご主人の今の名前を気に入っておられるぞ! 『トーマス・ジェミニ』をな」
--------------------------------------------------------------------
私がご主人に植えさせたブルースターが辺り一面に花開いた。
その青い可愛い花を三人(二人と一匹という話もあるが)でいっぱい摘んで……“ツンデレメイド”は花の冠を編む。
ここはベルベーヌ領の最果て
彼らが恐れる“白の魔女”が支配する火と龍が闊歩する世界への端境の地。
笑ってしまうのだが、それは心に疚しさや恐れを持つ者が勝手に見てしまう幻影なのだ。
実際は肥沃な土壌がたくさんの自然の恵みを支えている。
「本当によろしいのですか?」
「何が?」
「母上様のお顔に二度と会えなくなりますわよ」
“ご主人”はどういう反応を示すのだろう? 私は髭をピン!として頭をもたげて聞き耳を立てる。
「ははは、大のオトナの息子に……いつまでもその面影を追いかけられては、母は落ち着いても居られまい。それよりも息子を愛し慈しみ支えてくれる可愛い花嫁の顔を見せてやって欲しい」
「そうですね。私のこの胸に……今度は母上様を抱いて差し上げます」
そう言ってツンデレメイドは自分の胸のカメオのブローチを確かめる。
-さあ!! グランドマザーを始め……皆様が祝福に集いましたよ!!-
ご主人がブルースターの冠をツンデレメイドの頭にそっと載せると
たちまち七色の光が二人を包み
私達には懐かしく心待ちにしていた
薔薇色の頬のアメリア嬢が
トーマス・ジェミニの腕に抱かれていた。
そう彼女は生まれ変わって
今日からアメリア・ジェミニとなる。
そしてこの物語は
“サムシングブルー”の一つの逸話として
語り継がれるであろう。
おしまい
。。。。。。
イラスト描こうかと思ったのですが、メイドが描けない(^^;)
なのでAIにゴッホ風?に描いてもらいました(*^^)v
私達には珍しい異世界モノです(しかもメイド!!( *´艸`))
お越しいただいた方が多かったので再掲いたしました(^O^)/