さあさお立会い
いやー、まいったなー。
俗に言うところの異世界転生をくらったけど、意識が戻ったときには国が滅びてて戦争奴隷として二束三文で売られてたわ。
えー、マジか。
奴隷って古代ローマ相当?中世ヨーロッパ?南北戦争前の米国ぐらい?それとも魔法とかで管理されちゃうファンタジー仕様?
やだなー。何にしても売られた先の上長の質で幸福度と寿命が決まるぞ。アカンやつに叩き売られるのは御免被りたい。
この一本の棒状の金具に、各人の拘束具を挟んで効率よく管理している手慣れた感じがいっそ感心しちゃう。ポンペイの出土品か何かでもあったぞ、こういうの。
これ一束で単位ですね?ご相席の皆さん、よろしくお願いします。皆さん、見た目怖そうだけど意外に紳士……と言ったら言い過ぎだけど、大人しくしてわりと気を遣ってくれている感じでありがたい。密度凄いし、衛生なにそれな環境なので、気遣い重要。臭いとかはお互い様なので言及しない方向で。ありがとう。
うん。こいつらとなら十把一絡げで売られてもやっていけそうかも?
とか思っていたら、体格のいい皆さんから引き離されて、一人だけ別のところに連れて行かれた。特別扱いされていると思われたのか、皆さん騒いでたけど、ごめんね。たぶん間引かれただけじゃないかな。なんか一人だけ体格違ったし。
連れてこられた別の小さい部屋にいれられていたのは、華奢な女の子だった。……足枷がある。彼女も奴隷っぽい。
ども。お世話になります。底辺同士仲良くしましょう。
ニコニコ愛想よくしてフレンドリーにしてみたが、怯えられた。ショック。
顔か?顔が悪いのか?とりあえず鏡なんて見られる境遇じゃなかったから、確認していないけれど、不細工さんなのかもしれない。
うーん。彼女の方は美人だ。まいったなー。仲良くしたいんだけどな。袖振り合うも他生の縁と言うし……って今、他生だよね~。振り合える袖ないけどさ。
この頼りなーいボロ布、体にぐるぐる巻いてあるだけなんだよね。ワイルドだろ!
ワイルドすぎると思われたのか、盥の水と手ぬぐいっぽいものを渡された。
うん。水はまず飲もう。
君も飲む?いらない?
あ、そう。
どうやってお近づきになるか思案していたら、二人揃ってまた引っ立てられた。おい、か弱い乙女に乱暴はよせよ。
連れてこられたのは、四方に壁のある中庭っぽい広場で、人がいっぱいいる。周りからよく見える少し高くなった台には、足枷付きの男が立たされている。
セリの会場か。朝市?
売り手らしき男が、周りの客に商品のアピールポイントを説明している。どうやらメインの司会者的な人はいなくて、集まった各奴隷商が、今回の"個売"商品を、順番に売るシステムらしい。
あー、あいつはさっきのやつと比べて説明が下手だな。しかも最初の値段の付け方も悪い。あーあ、買い叩かれた。
おっと、次のやつはちょっとマシか?まぁまぁか。
並んでいる間にわかったことは、皆、総じてパフォーマンスのレベルが低い。セリなんて客のテンション上げてなんぼだろうに。
しかも小耳に挟んだところによると、今回のセリでは、亡国のお姫様が持ち込まれる可能性が高いと言う噂があって、金を持ってきている上客が多いらしい。そういうチャンスに巻き上げないでどうする。
金になる話があるんだが、一口乗るか?と、うちの売り手に声をかけてみた。ダメ元だと思ったのに、意外や乗ってくれた。
この売り主はセリ会場での口上は苦手らしい。代わりにやってやるから、報酬をくれと言ったら応じた。いくらで売るつもりか聞いたら、50万で始めて80万程度のつもりだったという。なんて弱気な。
自分が口上を担当したセリの結果が100万を上回ったら超えた分の10分の1をくれ、目標に届かなかったら報酬はいらないと言ったら、その条件でOKしてくれた。100万なんて出ねぇよって顔をしている。フフン。
ここでの細かいルールや、条件を教えてもらって、契約を簡易的にだが書面にしてもらう。
問答無用な権利ナッシング奴隷制じゃなくてよかった。口車と勢いがあれば、結構いけるっぽい。よっしゃ、いっちょやってみよう。
「さあさ、お立ちあい。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
遠出山越笠の内、聞かざる時にゃあ、物の出方も、善悪、黒白がさっぱり分からぬのが道理。御用と お急ぎでなかったら、近くば寄ってご照覧あれ。
さても、さても。
早速、お控えくださり、ありがとうございます。
生来の粗忽者ゆえ、前後間違いましたる節は、まっぴらご容赦願います。
向かいましたるお兄いさん方には、初のお目見えと心得ます。手前、生国はここよりはるーか東の海にあるという蓬莱・方丈・瀛洲の三神山もかくやという霊峰に抱かれし国なれど、娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわすと申す通り、唯春の夜の夢のごとく今は無きところであります。
親を亡くし、名を無くし、寄る辺のない身の駆出し者でございますれば、以後、万事万端、お願いなんして、ざっくばらんにお頼申します。
さてお立会い。
身元が不詳で、名も分からぬとなれば、なんで買おうか、買わざるか。お迷いなさるなら、まずは、その目でしかと見よ。
天角、地眼、一黒、直頭、耳小、歯違う……おっと歯並びは上々だ。
これこの通り、牛ならA5の最上級のこの身体。
なに身体だけでは、ございませぬ。
手前 この身の内より取出したるは、これぞ一族に伝わる家宝にて鍛冶の神が暇に飽かして鍛えたという天下の名刀。元が切れない、中が切れない、中が切れたが先が切れないなんていう 鈍刀・鈍物とは物が違うよ。御覧じあれ。
エイ!抜けば玉散る氷の刃。
お兄さん。ちょっとそちらの紙を一枚拝借。
これを切ってこの名刀が切れ味ご覧に入れましょう。
さあさ、ご覧の通り種も仕掛けもございません。
一枚が二枚。二枚が四枚。四枚が八枚。八枚が十六枚。十六枚が三十二枚。三十二枚が六十四枚……。見事に切れたこの紙吹雪、パァッと散らせば、花は花月、落下の舞い〜。
さてお立会い。
驚くのはまだ早い。
この切れ味優れし名刀を、この身にあてると、どうなるか。
男は度胸で、女は愛嬌。
我が二の腕に触っただけで 赤い血がタラーリタラリと出る。
だが、お立ち会い、血が出ても心配はいらない。玉の肌が目の前で傷物になっちまったとお嘆きめさるな。
これこの通り、刀を収めて傷口に手をかざし、霊験あらたかな呪文を唱えれば、あら不思議。
アジャラカモクレン、フーライカ、テケレッツのパー!
血が止まるどころか、髪一筋の傷も残らぬこの奇跡。
さぁさどうだ お立ち会い。
本来ならば値千金万金重ねれど手には入らぬこの身だが、今回は霊山の天辺から真逆様にドカンと飛び降りたと思って、本日ここにお集まりの衆に限っての大奉仕。
一声、千万以下は受け付けぬと言いたいところを、なななんと!半額からの大ご奉仕だ。
おっと、逸るな急ぐな慌てるな。慌てる乞食は貰いが少ない。急いては事を仕損じる。
聞いて驚け見て驚け。
本日はさらに!これなる美女も合わせてのご提供だ!!
さあさあ、こんな機会を逃しては、今夜、口惜しさに歯ぎしり必須だ。お立会い。
さあ、今だ!と思ったら買っていきな。
まずは、一声500万から!!」
そりゃもう盛り上がった。
口上詰め合わせ。
外郎売の早口言葉を入れるのは自重しました。