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04.ボクは何者なの?

(とにかく事情が分かる大人に確認しないと……)


 警察へ行く前に教師へ確認することにした少年は、朝のホームルームが終わると真っ先に担任らしき男性教師へと声をかけた。


「あ、あの、すみませんっ!」


「なんだ、桜井。どうした?」


「えっ……えっと……実はボク、自分が誰だか分からなくて……」


「? 何言ってんだ、お前。いつまでもゴールデンウィーク気分で浮かれているんじゃないのか?」


「違うんですっ! 本当に自分が誰だか分からないんです!」


「なるほどーそういうことか。桜井、良くないぞ。また、そうやって先生をからかってるんだな? おーい若月。こいつ何とかしてくれ~」


 そう面倒くさそうに口にすると、男性教師はそのまま教室から出て行ってしまう。


「湘くぅ~ん……いつまでそのくだらないボケやってるのぉー? さすがにみんな呆れてるよー」


「違うって! ボクは本当に記憶が……」


「湘馬、もうその辺にしておけよ。若月との仲を訊かれて恥ずかしくなってボケてるんだろ? いい加減、白状しちまえよ」


「っ!」


 このままこんな場所にいても埒が明かない。

 そう思った少年は次の瞬間には教室を飛び出していた。


 何か呼び止められるような声が後ろの方で木霊するも、少年は構うことなく全速力で学園の外へと飛び出した。


 もうわけが分からなかった。

 大声で叫んでしまいたかった。


(誰か! 今ボクがどういう状況にあるのか、教えてよ……!) 


 もう頼れる相手は警察以外にいなかった。


 無我夢中で走っているうちに、いつの間にか少年はモノレールが走る駅前の繁華街へと出ていた。


 近くの交番へ一目散に駆け込むと、少年は駐在している若い警察官に早口で事情を説明する。


「すみませんっ! 助けください!」


「どうしたの」


「ボク……その、自分が誰か分からないんです! ここがどこかも……」 


 そう少年が口にした瞬間、警察官の男は怪訝な顔を浮かべた。


「……キミ。汐臨(しおりん)の生徒だね?」


「えっ」


「学生手帳見せて」


「学生手帳? そんな物は……」


「ここに入れているんじゃないのか?」 


 そう口にすると、警察官の男は少年の胸ポケットから学生手帳を素早く取り上げる。


「なんで……」


「汐臨の生徒さんは真面目だからね。肌身離さず学生手帳は持ち歩いているのさ。えっと……桜井湘馬君。2007年生まれの16歳、高校二年生……」


「か、貸してくださいっ!」 


 少年は警察官の男から学生手帳を受け取ると、そこに書かれた名前をまじまじと眺める。


(あの部屋のドアに掛けられていたネームプレートの名前と同じだ。それにこの写真は……) 


 窓ガラスに映った自分の顔を少年は思い出す。

 写真に写っている顔はどう見ても自分の顔そのものであった。


(やっぱりこれがボクの名前……) 


 少年――湘馬は、改めて学生手帳に目を落とした。


 その様子を見て、男が訝しげに声をかけてくる。


「そこに写っているのはキミだよね?」


「……そ、それが……。よく分からないんです……」


「分からないってことはないだろ? その写真。間違いなくキミの顔だ」


「で、でもっ! 本当に記憶が無いんですっ! さっきまで山の中にいたと思ったら、急にこんなところへ飛ばされて……」


「ふーむ。ゴールデンウィーク明けになるとね。そうやって現実逃避して、わけの分からない御託を並べて大人を誤魔化そうとする子が多くなるんだ。所謂、五月病ってやつさ。学校に行きたくないのなら、まず先生ときちんと話し合って……」


「違うんです! そんなんじゃない! ボクは本当に自分が誰か分からないんです……っ!」


「……なるほど。それじゃまずは親御さんに一度確認した方が良さそうだな。それにキミ。今は授業中だろ? 汐臨の生徒がそんな不良でどうする? 先輩たちが泣くぞ」


「…………」 


 これ以上話しても意味はないと悟った湘馬はそのまま交番を飛び出す。


 頼りになると思っていた警察にも相手にされなかった湘馬はいよいよ行き詰ってしまった。

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