表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/121

19 応用その二

『材料はすべてこの森に揃っている。すみやかにそれらを集めて私のための治療薬を調合してほしい』

「わかりました、何を集めればいいんですか?」

『アナタの脳内に直接送ろう、私と額を合わせてくれないか』


 スェルは素直に従い、ペガサスと額を合わせる。

 めっちゃ近い。

 やっぱ変態だろあの馬。


 双方の額の隙間が青白く光っている。あれで記憶のやりとりをしているのか。


「……わかりました! 全部どこにあるか把握できます! すぐに戻ってこれそうですエピクさんの協力があれば!」


 僕の協力がいるのね。


『少年、彼女に同行し素材集めを手伝うがいい。もしもの際は命を捨てて彼女を守るのだぞ』


 変態馬。


「でも、そうなったらここにペガサスさん一人だけになってしまうんじゃ? 大丈夫です?」

『聖獣ペガサスを舐めるでない。傷を負っていようとここらあたりの魔物なら一睨みで追い散らせる』


 さすがの聖獣、圧倒的な自信。

 それでは一人寂しいだろうけどペガサスをこの場に残し、僕らは聖獣用治療薬になるという素材の収拾に向かうのだった。



「しかし妙な話になってしまったな。元々は薬師協会に納める素材集めの目的だったのに……」

「仕方ありません! 聖獣様が困っているのを見つけたら助けてあげるが世の定めです!」

「そうなの……!?」


 聖獣は信仰の対象などと言われていたけど、それだけ人から愛されてるんだなあ。


「それで僕たちは何を集めればいいの、あの馬のために?」

「ペガサス様が教えてくれた治療薬の材料は大きく三種類ですね。それさえ揃えばあとは手持ちの素材でなんとかなります」


 その主原料とは……。


 ブラックラッカーマンバの生き血。

 ハクドクツルダケの胞子。

 トウセンゴケ。


「……ですね」

「……」


 なんか字面だけでもおどろおどろしさが伝わってくるんですが。

 こんなので本当に聖獣専用の治療薬が作れるの?


「聖獣は人間よりも遥かに高等な生物ですから通常では効かないんですよ。ずっと効果の強いものでないと。人間にとっては毒か劇薬となるぐらいに」

「おどろおどろしくなるのも仕方がないと……!?」

「あ、早速一つ目が見つかりました。ブラックラッカーマンバです」


 いる……!?

 目の前にヘビが……!?


 真っ黒な体で鎌首を上げて、遭遇した僕らのことをおもっくそ威嚇している。

 シャーとか言って開けた口の中まで黒い。怖い。


「ブラックラッカーマンバの毒はモンスターの中でも最強クラスと言われています。人が噛まれたら三秒以内に死ぬので絶対噛まれないでくださいね」

「近づかないという選択肢は?」

「そんな毒を体内に溜めておくからこそ、その生き血には強靭な生命力が宿っています。聖獣の活力を復活させる栄養源になるはずです」

「そんな生き血を人間が飲んだら?」

「効果がありすぎて鼻血どころか耳や目からも血が噴出するでしょうね」


 怖いマジ怖い。

 そんな毒蛇に接近するだけで命がけじゃないか。スェルを危険にさらすわけにはいかないから、必然僕が近づかないといけないんだけど。


 何であんな変態馬のために僕が命かけないといけないの?


「仕留める時は気をつけてください! 毒が血に交じったら使えなくなってしまうので!」


 簡単に言ってくれるなあ。

 僕は『消滅刃』でヘビの喉笛を斬り裂く。元来透明で色も匂いもない『消滅空間』を察知するのはどんな生物でも至難の業だ。


 僕がこれまで消してきたすべてのモンスターと同じように、死神のごとき黒毒蛇も自分の死の瞬間すらそれのことを察知できなかった。


 あまり深く斬り込まなかった。体のどこかにある毒腺を傷つけたら大変なので。


 そこからあの蛇の血を搾り出さないといけないんだがここで試したいことがあった。

『消滅』スキルの新たな応用法だ。


『消滅』スキルが発動する時『ボシュッ』という音が鳴るが、『消滅空間』内で空気も含めたすべてが消滅し、一瞬だけ真空が生まれる、その真空へ向かって周囲の空気が流れていく音だ。

『消滅』の副次効果としての真空からの空気の流れ、その方向性を上手く調節して何かに利用できないかと考えた結果……。


「空気『消滅』」


 首に斬り口を入れられた毒蛇の前方に『消滅空間』=真空空間を作る。気圧を保とうという作用に吸い寄せられるのは空気だけではない。

 その空気に近い液体までも。

 蛇の体内に詰まった血液が、傷口からポンプで吸うように噴出する!


「スェル! 今!」

「はいぃいい!!」


 すかさず開けた革袋の中に上手いこと飛び込んでくる血液。

 悪夢のモンスター毒蛇は、元々首の傷が致命傷だったのに加えて一瞬で全血液を抜かれたことでの失血死となった。


 これで一つ目の素材は確保。

 次に行こう。



「ハクドクツルタケはモンスターじゃないです。でも大抵ダンジョンに生えてる即死級の猛毒を持ったキノコです」


 また物騒なのが出てきた。

 しかしそんな危ういものも魔の森に生えているのか。僕の街の近くの危険スポットは本当に途轍もないところなんじゃない?


「時期になると胞子を飛ばして繁殖しようとするんですがその中に毒が含まれていて、周囲にいる生き物を全滅させるそうです」

「また危ない」

「その成分が聖獣にはよく効くんだとか」


 そこはもういいよ。

 本来であれば宙に舞っている毒胞子を採取するなんて、そのまま吸い込みかねない自殺行為なんだが。


『消滅』スキルで真空空間を作り、その中に胞子を集めることでまた安全に採取することができた。


 最後のトウセンゴケとやらはサイ型のモンスター、トウセンサイの表皮に生える苔。

 毒はなくやっと安全に採取できるのかと思ったが、宿主となっているトウセンサイは鼻先に鋭い角、鎧のような皮膚に巨体と超パワーを備えた紛れもない強豪モンスター。


 迂闊に近づいたら突進されて刺し貫かれて即死。


 さらに厄介なことに宿主のトウセンサイと寄生者のトウセンゴケはまだ解明できていない特別な繋がりを持っていて、サイが死んだ途端コケも一斉に枯れてしまうという。


 トウセンゴケを採取するには宿主のサイを生かしたまま。

 マジかよ、と思った。


 どうしたもんかと思ったが、『消滅』スキルによる真空操作がまた役に立って、サイの周りの空気を奪い、酸欠させることで失神。意識を失っている間にいそいそ苔を削ぎ取って撤収した。


 いや『消滅』スキルを介した真空操作超使える。

 応用範囲がバカ広い。


 今までなんでも消すしかできないと思っていた『消滅』スキルで、相手に傷一つ付けないまま目標達成できる日が来るなんて思いもしなかった……!


「で、あとは集めた素材を順番にペガサスにぶっかけるだけ?」

「バラバラじゃダメですよ。薬は適切な分量調合し、処理を加えて初めて効能を得るんですから」


 ぶっかけるところは否定しないのか。


「調合するのはいいにしてもこんな森の中でできるの? 専用の器具とかいるんじゃない? 一回街に帰る?」

「難しいものなら帰らないとですが、幸いそこまで複雑な工程はいらないのでこの場で大丈夫です。最低限の道具さえあれば、あとはスキルでなんとかなります」


 薬師の職系スキルね。

 冒険者以外にも様々なスキルがあって生活の役に立っている。


 スェルも薬師協会長の娘なんだからきっと豊かな才能を生まれ持ったんだろうなあ。

『消滅』スキルにすべてのリソースを喰われた僕にとっては羨ましい。


「実は私、薬師系のスキルは全然使えないんですよ」

「え? そうなの?」

「本当ダメですよねぇ、お父さんが協会長なのに。これじゃ格好つかないから何とかして役に立とうと思って。薬草が届かなくなった時も先走って一人で森の中に入って。かえって迷惑ばかりなんですけど……」


 自嘲気味に言うスェル。

 彼女も苦労を抱えているんだな。しかし才能に恵まれずともひた向きに頑張っているのは凄いことだ。

 今だってスキルもないのにそうして調合を進めて……。

 ……。


 え?

 じゃあどうやって調合してるの?


 ましてこんな器具も揃ってない野外で?


「完成しました!」

「そして成功させているし!?」


 なんだか安易に触れてはいけなそうな件であったためスルーした。僕の気の弱さがここでも光る。


 そしてやっとすべてを片付け終えて依頼主(馬)の下に戻ったところ……。


 ペガサスが冒険者たちに襲われていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 真空なら何でも出来て当然みたいな雑さ。
[一言] 図々しい奴しか出てこない。
[良い点] 昔話のごとく、因果応報が分かりやすく巡っていく様が楽しいです。 必要最低限の設定説明なのもあり、物語もテンポよく進んでいくため気楽に読めて心地よい。 [気になる点] 蛇の生き血を抜くシーン…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ