00 役立たずの最強スキル
僕の名はエピク。
冒険者だ。
しかしながら大した冒険者じゃない。
十歳の頃から始めて五年もかけているのにいまだに最下級のF級。
一度も昇格しないまま今日を迎えている。
それもこれも僕にスキルが恵まれなかったせいだ。
いいスキルを持っていればこそ困難なクエストを乗り越え、上を目指すことができる。
しかし僕はそんな大したスキルを生まれ持たなかったので一生底辺にいることを約束されたようなものだ。
そんな僕にできることといえば、そんなに多くない。
薬草採取。
新人冒険者がやらされるもっとも簡単で安全なクエストを、僕はもう五年間何度も何度も繰り返していた。
◆
今日も同様だった。
採取袋がパンパンに膨らんでいるのを確認し『今日はこれくらいにしておくか』と立ち上がる。
もちろん中身は薬草しか入っていない。
「ずっと中腰だったから、きつ……!」
朝からずっと同じ体勢であった腰をいたわっていると、どこからか危険な気配が漂っていた。
振り向くと、そこには巨大な毛むくじゃらが聳え立っていた。
モンスターだ。
体中から角の生えたクマのようなモンスター。表情も凶悪で、こんなものが腕を振り上げ、殴りつけた暁には人間なんて跡形も残るまい。
「ガリゴリグリズリーか……」
僕も冒険者の端くれならば危険なモンスターの名前も一通り叩きこんでいる。
クマ型モンスター、ガリゴリグリズリーはC級冒険者の討伐対象。
それくらい危険なモンスターで、最底辺のF級が間違っても対していいものではない。対すれば間違いなく命を失うだろう。
しかし僕は、死の覚悟などしなかった。
僕の持っている唯一の役立たずスキルが、珍しく威力を発揮する機会だったので。
『グォオオオオッ!!』と唸り声を上げて腕を振り上げる大クマ。
僕のことを獲物か、嬲って遊ぶ生きたオモチャだとでも解したのだろう。
その凶悪グマに向けて手をかざし……。
「……『消滅』……」
次の瞬間、モンスターは影も形もなく消え去った
『ボウッ』という空気が弾ける音と共に。
すべて何もかも消え去った。
返り血も肉片も、かつてここにモンスターがいたという痕跡すら残っていない。
これが僕がたった一つ持つスキル『消滅』だった。
任意対象を瞬時のうちに、跡形もなく消し去ることができる。
抹消する対象に条件はない、相手が堅かろうと脆かろうと、不定形で衝撃吸収するタイプだろうと、何なら霊体であっても問答無用で消し去ることができる。
このスキルを授かって『無敵じゃん』と浮かれたのは最初の頃。
しかしすぐに大したことがないということがわかった。
何せこのスキルは、対象とするすべてを『消滅』させてしまうから。
跡形どころか塵すら残らない。
大抵の場合モンスター討伐クエストでは、ちゃんと倒したことを証明するためにモンスターの死体そのものか体の一部を届け出る規則になっているが、『消滅』スキルを使ったら死体なんか当然残らないし討伐証明は不可能だ。
モンスターの一部を素材として持ち帰るのも当然無理。
だからこそ僕のスキル『消滅』は、どんなモンスターでも倒せる無敵のスキルながら、倒したところで何の益もない役立たずスキルでもあった。
だから、そんな僕にできることといえば薬草を摘むことだけ。
薬草は無抵抗だから『消滅』スキルを使うまでもなく手摘みで採取可能だから。
「まあ危険を排除して森の奥まで分け入ることができるだけ得だけど……」
役に立つといえばそれくらいだ。
そんな役立たずスキルを得てしまった僕は今日も、薬草だけ袋に詰めて採取場を後にするのだった。