2.ミシェルの幼少期
ミシェルはおとぎ話の村で生まれた白薔薇だった。両親にもちゃんと愛され、年の近い子供たちも何人かおり寂しい思いをすることはなかった。
これからもきっと、皆と一緒にこの村で楽しく過ごすと信じてた。
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ミシェルは白薔薇といっても体の造りが他とは違うだけで見た目、中身は普通の白雪たちと変わらない。そんなミシェルは10歳になって、恋などに浮きだつ時期になってきた。
「ミシェルは好きな人いないの?」
そう聞いてくるのは横で寝そべっている同い年のラン。彼女は恋バナが好きでよくそう聞いてくる。
今日みたいなお泊まりの日は特にそういう話をしてくる。
「うーん。いないかなあ‥?好きがわからないなあ」
「えー!ミシェルはまだ子供ね!」
「ランは好きな人いるの?」
「いるよ!内緒だよ?‥‥アッセンが好きなの」
「えっ!アッセン!?」
「しぃっ!声が大きいよ!?」
二人で同じ布団のなかで横になりながら話してると、意外な人物の名前が出てきたことでミシェルは驚いた。
アッセンは、ミシェルたちの2個上の男の子。年が近い事もあり、何度か遊んだことはあるがミシェルにとっては余り印象に残る男子ではなかった。
「どこが好きなの?」
「もぅ!そんなこと聞いちゃうの?話してみればわかるよ!気遣いができて優しくて、頭も撫でてくれるし、もうなんだろ雰囲気が好きなの!」
「へぇ」
「興味無さすぎじゃない!?」
知らぬ間にランはアッセンに近付いて、結構仲良くなっているらしかった。それをミシェルはあんまり良く思わなかったが、どうしてそう思ったのかはわからなかった。
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そんなお泊まり会から一年がたちミシェルは11歳になった。
特に変わらずに過ごしていたミシェルたちだが少し変わったことが起きた。
それはアッセンの変色化が始まったのだ。変色化というのは白雪じゃなくなるということだ。白い髪の毛は金に近い色に、瞳は青く。まるで外の世界で言う王子様のような見た目に少しずつ変わっていった。
そんなアッセンが気になり、ミシェルはアッセンを目で追っていた。
そんなある日、いつものように広場の噴水に座りながらアッセンを眺めていた。
「どうしたの?そんなに見つめて」
「ラン!アッセンの変色化が気になって」
「あぁ、変色化なんて滅多にないものね。アッセン、王子さまみたいな見た目なのに色もついちゃうとかモテモテじゃない‥」
「ランはアッセンが好きだものね」
「はぁ!?もう、好きじゃないわよ!?」
「え!?そうなの!?」
「ええ、私、彼氏できたもの!」
「えええええええ!?」
いつの間にか、横に座っていたランに話しかけられて驚いたがそれよりもランは、知らぬ間に彼氏を作っていたことにもっと驚いた。彼氏は、もちろん同じ村の白雪。1個年上のライアンだと言う。
ライアンは結構筋肉質で、脳筋だと思っていた。勝手に恋愛に無縁そうだな‥って思ってたけどランと付き合ってたのか、とミシェルは考えていた。
「知らなかったなあ」
「まあ、そういうことだから、私に気を使わずアッセンと話ておいでよ」
「そうだね‥話してみよっかなあ」
二人で笑い合う。
「じゃあ、私、これからライアンのところいくから!またね!ミシェル!」
「うん!」
ランが元気良く去った後、ミシェルは心を決めて草むしりしているアッセンに近付いた。
「こんにちは。アッセン」
「ん?あぁ、ミシェル。どうしたの?」
「アッセンと話したくて」
「そんなこと言われると勘違いしちゃうよ」
「そんなことない癖に」
「いやいや、ミシェルは可愛いからね。ドキッてしちゃうよ」
アッセンは流れるように口説き文句を並べる。他の子にも同じ言葉を言っているであろうことが想像できる。
そこでミシェルは気遣いてしまった。
他の子には言わないで欲しい、という薄暗い気持ちを。嫉妬を。
嫉妬するということはつまり、アッセンに惚れているということ。いつからかは分からないが、確かにアッセンに恋していたことに気づいてしまった。
「あっ、あの、」
「どうしたの?ミシェル」
「いや、あの、」
「落ち着いて。大丈夫だよ」
「‥ありがとう。私も草むしり手伝う」
「ありがとう!助かるよ」
急に言葉に詰まるミシェルに不審に思っただろうが優しくしてくれるアッセン。そんなアッセンにミシェルはときめいた。
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時は流れてミシェルは13歳。アッセンは2個上の15歳になった。
あの草むしりからミシェルは何かと理由をつけてアッセンの傍にいた。好きとも言えず、ただ傍にいた。
そんなミシェルの気持ちに気づいているのかアッセンは他の女の子を口説くような言葉は吐かなくなった。
最近は他の誰かといるよりも、アッセンと二人きりでいることが多いミシェル。村の中では公認カップルだった。
いつものように村の隅っこの方で、二人寄り添いながら座っていた。
「ミシェル」
「なあに?」
「可愛いね」
「ふふっ、ありがとう!」
「食べちゃいたいくらい」
「少しぐらいなら食べてもいいよ?」
「‥食べるの意味わかってる?」
「え?」
「‥‥」
ミシェルは13歳とは言え、まだ純粋な子供。なにもわかっているはずもなく、ただの冗談として返事したつもりだった。
だが、アッセンはミシェルを暫く見つめると顔を近づけて来た。アッセンの顔が近くにあるミシェルはドキドキして身動きがとれない状態だった。それでもアッセンは止まることなく、ミシェルの口を食んだ。
アッセンが離れた瞬間、やっと理解したミシェルが顔を真っ赤にして固まる。
「っ!」
「嫌だった‥?」
「う、ううん」
悲しそうにするアッセンに思わず、首を降るミシェル。
「急だったから、ビックリしただけ」
「そっか!ならよかった。もう一回してもいい?」
「‥‥うん」
始めてのキスはとても甘かった。それはもしかしたらさっき一緒に食べた果実のせいかも知れないが、さっきの果実より、とても甘美な味がした。
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始めてキスから2か月経った。あの時からミシェルとアッセンのキスは日課になっていた。毎日のように一緒にいるミシェルとアッセンは人気の少ないところでお互いの唇を貪り合っていた。アッセンはそれ以上の行為を求めようとしたが、ミシェルは付き合ってもいないのにそれは許せなかった。だが、付き合おうとも言えず、ただお互いの唇を貪り合っていた。
「はぁっ‥」
「ミシェル‥‥」
「‥?」
「ごめん、ミシェル」
「どうしたの?」
ギュッとミシェルを抱き締めるアッセン。
「俺、外に出たい」
「それ、は‥」
私を捨てると言うこと?‥言葉が続かなかった。だって付き合ってもいないのだから。でも、一緒になる未来を思い描いていた。
「ミシェル。俺は、外に出たい。でも、俺は、ミシェルのことが好きだ」
「え?」
ミシェルは頭の中でパニックが起きた。
「俺は、来年、成人したら外にいく」
「あ、え?」
「少しだけ、外を見たら帰ってくるから、待っていてくれないか?」
「う、うん!」
それはいますぐの話じゃないけれど、プロポーズに近いものだった。好きと言われ、そんなことを言われたミシェルは受かれて、約束をした。
やっと、アッセンと思いが通じたと。
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ミシェル14歳の夏。アッセンが成人と言われる16歳になった。
昨日成人したアッセンは遂に今日、村の外に出る。
皆に見送られながら、アッセンは村の唯一ので入り口であるゲートの前まで来た。
「ミシェル。待っていて」
「うん!アッセンが帰ってくるの、待ってる」
「ミシェル、大好きだよ」
「‥っ!私も!大好き!」
最後のキスと包容を交わして、アッセンはゲートを潜った。