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鬱展開大好き主人公VS優しい世界  作者: 石蕗石


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背中を押されたらとりあえず走れ

うーん素晴らしき青春。そこに混入した異物こと俺だよ。

優しい世界のしっかりした大人達に囲まれていると、子供達は本来の伸びしろに見合った成長ができないこともあります。なので自主的に課題に挑戦する姿勢はなるべく応援してあげましょうね。

そう思うだろ?

つまり子供だけで謎の魔法で謎の閉鎖空間に行ったり未知の魔道具にちょっかい掛けるのも、大人達が優しく見守るべき思春期の子供なりの未来への羽ばたきとかなんかそういうアレということだ。


理論武装はこんなもんで大丈夫だろう。

いやあ、久々に聞く悲鳴は乾いた身心に染み渡るね。寿命が延びるよ。なおこれは長生きするという意味ではなく、明日に命を繋いだという意味なんですけど。

幼少期のトラウマ。こんなに心躍る言葉が他にあるだろうか? あるけどそれはさておき。

まあトラウマなんて発生する時期を自分で選べるもんではないが、特に幼い子供の頃に避けようもなく刻まれた傷というのは、その後の人生に大きく禍根を残すものだ。

キャロルお嬢様はどこに出しても恥ずかしくないご令嬢として生まれ育った。お姫様と言ってもほぼ過言ではない。

もちろん彼女が優れているのは血統だけではなく、それに見合った努力を本人がしているからこそなのだが、その血筋的にも能力的にも優れている自分について、本人だけがどこか後ろめたさを感じている。

当然それはただの錯覚だ。改めて言うが彼女はどこに出しても恥ずかしくない、才色兼備の優しいご令嬢である。

当然彼女は常日頃褒められ倒しているので、周囲からの賞賛は今更心を動かしたりなどしない。

彼女を許せるのは彼女の心だけなのだ。

とはいえそこに身分の違う友情要素という後押しが加わるのも、それはそれで趣深いっすね。


小さい頃にやってしまった周囲を巻き込むような失敗、引きずるよな。俺だってわかるよ。

改めて言うまでもないと思うが、バリバリの幼少期にメイドさんにばかばかきらい! みたいなキレかたをしてしまっただけのキャロルちゃんに罪はない。普通に親馬鹿が有罪である。

けれどそこで自分のせいだと感じてしまう思いやりの深さこそが彼女の良いところでもあるので、周囲に気を使い過ぎてしまういまの性格が出来上がったのも、彼女が彼女だからこそというものだ。

あの謝罪っぷりからしても、心の傷はかなり深かったのだろう。これまた彼女の年齢では仕方のないことと言えるが、辞めさせられた少女のその後をなかなか確認できなかったことが追い打ちになっていたのは想像に難くない。

いまからできることといえば、彼女が言っていたとおりなんとか父親を説得して、セシリーさんを探し出して誠心誠意謝ることくらいだろうか。俺の予想では多分キャロルちゃんより雇い主である侯爵にキレてる可能性が高そうだが、まあひょっとするとクビの原因となったキャロルちゃんに怒っている可能性もある。

一番悪い予想としては、一家全員路頭に迷ってもう既に、という可能性ももちろんある。

どんな結果が出るかはわからないし、そもそもセシリーさんが見つかるかもわからない。

結果はどうあれ、それはキャロルちゃんの中で続いてきたある種の贖罪に対する、ひとつの結末にはなるだろう。

そこから今まで通り自分をやや過剰なくらいに律する生き方を続けるのか、それとも改めて自分がどう生きていくべきかを模索するのかは、当然彼女自身が自由に選択するべきだ。


あらゆるものを与えられ、順風満帆に見える人間にも、だからこそままならないものがある。

市井の子供達が自由な振る舞いを当たり前のように許されている時分に、もう自分の生き方を決めなければいけない子供達も存在するのだ。

それは支配者側として生きていくことを定められているキャロルちゃんもだし、有り余る才能があってもとっくに庇護者を亡くしているノエルくんもだし、おそらくはジーンくんにも何かしらの事情はあるだろう。

学び舎というのは自分になくて他人にあるものをまざまざと見せつけられる場所でもあるけれど、足りないものを補い合える仲間に出会える場所でもある。

今回のこともまた、きっと彼らの人生の糧となるだろう。

俺はそれを見守れただけで心から幸せです。いやごめんそれはちょっと盛ったわな。ほんとはセシリーさんのその後とかも報告して欲しいです。そこはやっぱキャロルちゃんとの友好度次第だろうから、今後もお悩み相談をしてもらえるように、もっと仲良くなっておこう。

いやー、友情っていいですね!


という振り返りはこのへんで終了して。

書庫から小部屋への壁抜けは少々、いやかなりコツがいる仕様だったが、反対からは比較的難易度低めだったため、俺達はその後あまり時間を掛けずに戻ることができた。

今回の発見は当然学園側にも報告している。

俺としては今後も七不思議に引っかかってギャン泣きする生徒が出て欲しいのが本音なのだが、ノエルくん及び他二名は危険な七不思議もとい魔法を発見&解除するために動いているから仕方ないね。おこぼれにありつけただけでも良しとしよう。

ちなみに俺が鏡に見たのは、これまでの人生で関わった皆さんの姿だ。主に家族とヴォルフを筆頭に、そばに居る時間の多い人物が手前で、その向こうにもざーっともりもりに。全員を騙しているから全員に罪悪感があるのは、それはそう。見た目だけならなかなかホラーだったな。

それはさておき。

報告相手として選ばれたのはもちろん、皆の頼れる先生こと担任のアークランド女史だ。

おそらく転移魔法と精神魔法が原因だろうと推察した噂について、ぶっつけ本番体当たりで検証したらやっぱりそうだったぜ! という俺達もとい主にノエルくんの報告に、当然のことながら先生は頭を抱えた。すまんすまん。

まあでもボク達なりに勝算のある行為でしたし? 実際傷ひとつ負ってませんし?

そもそも学校の七不思議を調べてみよう! とかいう子供らしい無邪気さに満ちた罪のない遊びを責められる謂れはありませんし??

などという言い訳を一応は用意していたのだけれど、アークランド先生は難しい顔はしつつも俺達を頭ごなしに叱りはしなかった。


「心配だけれど、そりゃもう心配だけれどね? 私も子供の頃は似たようなことはやったから、あんまり強く言いにくいなあ~。言うべきなんだけどね!」


というのがその理由らしい。賢い子供は好奇心旺盛な場合が多いからね。さもありなん。

さて、では噂ではなく明確に存在が認知された壁抜け魔法と、謎技術で見ている相手の罪悪感を映し出す鏡についてだが、これはふつ~~~に高度かつ危険な魔法だと見なされたので、ふつ~~~に回収して、それなりに資格を持っている魔術師だけが閲覧できるようしまい込まれてしまった。

ちなみに教員の皆さんが小部屋へ行くには、かなりの時間が掛かった。そもそも入口が子供を想定したサイズなので、ある程度以上の身長があると壁抜けの難易度がハチャメチャに上がるのである。これまで学園側に発見されていなかった理由の数割はこのせいかもしれない。

解析にあたった教員曰く、土台部分には基本的な魔法技術も多数使われているものの、アレンジと発展が非常に独創的かつ斬新、とのことだ。俺は他の学問で平均を上げることで優秀者クラスに入ってはいるものの、魔法の成績が特別良いわけじゃないのでそのへんはよく分からない。

が、百年前に作ったものでありながらオリジナリティと先進性を評価されているあたり、これを作った人間がガチでノエルくんのご先祖様なのだとしたら、そりゃ夭折するまでの短期間に画期的な魔法のひとつやふたつ残しもするだろう。

そしてその魔法をちょちょいと読んだだけである程度理解し、応急処置としてきちんと無力化してみせたノエルくんがどれだけ優秀なのか、という話である。


学園としても悩ましいところだろう。

ノエルくんは明らかに好き放題させておけば勝手にガンガン伸びていく逸材だし、なぜか俺とかいう面倒の固まりが仲良しグループに参加しているし、キャロルちゃんも普通に配慮が必要な立場ときたもんだ。ジーンくんだってこの中では地味なほうだが、成績は上から数えたほうがぶっちぎりに早いほう。なので面倒を直接被りがちなアークランド先生よりもお偉い教員がたからしても、俺達はちょっと扱いに困る生徒達なのだ。どうもすみませんね。俺達の家柄と頭が良いばっかりに。

というわけで、学園側はちょっと捻った手段に出ることにした。


いま俺達はお決まりの適当に選んだ空き教室で、とある魔道具を囲んで雑談としゃれ込んでいる。

一人一人に手渡されたそれは、一見するとただのロケットタイプのペンダントにしか見えない。少々トップが大きい以外はごくごく装飾性のない地味な品だ。

しかし開いてみれば本来写真などを入れるスペースに、びっちりぎっちり魔方陣が彫り込まれた薄い金属板が数枚収納されている。

この魔道具の効果は、持ち主の位置の特定。つまり魔法のGPSだ。


「こういったものが既に複数用意されているということは、これまでにもこんな首輪を付けておかなければいけない生徒がいたのでしょうねえ」


教員方の苦労を思ってしみじみと呟いた俺にジーンくんが引きつった笑顔を浮かべているが、ここはスルーしておこう。俺が今回のことでヴォルフを筆頭とした側付きさんご一行から再びお小言をいただきまくっていることは、寮住まいの皆様にはそこそこバレてるからね。そりゃこんな暢気に他人事みたいなことを言ってたら苦笑のひとつもされる。


「ちょっとばかり不名誉な気もいたしますけれど……、でも、普段は付けなくて良いというのは、なかなか話がわかっていますわ」

「いや、そりゃ四六時中付けろなんて、学園も言わないって」


キャロルちゃんは俺と同じく暢気に頷いているものの、ジーンくんに同じく苦笑されていた。仲間だね。

学園側の対応は、怪しい場所を調べるときにはこのペンダントを首にかけてしっかり身に付けるように、というお願い一つだった。せめて人知れず謎の場所に迷い込んでぶっ倒れたりはしないでくれ、という悲痛な要望だ。これを持っていれば、少なくとも例の壁抜け魔法で入った場所から全員脱出失敗したとしても、その日の晩には優秀な教員及び俺んちの皆さんが救助してくれていることだろう。

まあ冒険中だけでも付けなさい、という配慮が発生したのは十中八九俺とキャロルちゃんの立場への忖度なので、仮にノエルくんとジーンくんだけがやらかしていた場合、しばらく常時これ付けて生活しろよ、と言われていた可能性もそれなりにありそうだけど。

俺個人は学園からのお願いを無視できる立場にあるんだが、そういうわけにもいかない。なぜならヴォルフ達にもこの魔道具の話が伝えられてしまい、ライア様ご窮屈かとは思いますがぜひとも散策の際だけでもなにとぞお持ちになっていただければ私達も嬉しく思いますしなによりひとえに御身のご安全のためですので……、とヴォルフに切々と頼まれたから。俺は断れない。なにせ普段から迷惑を掛けまくっているので。


「俺はこれ、もらえて嬉しいよ」

「ノエル、ちゃんとあとで返すんだぞ」

「いや、うまいことせしめようとかいう話じゃなくて」


ジーンくんからの冗談交じりの突っ込みを律儀に否定し、ノエルくんはGPSペンダントを服のポケットに突っ込んだ。


「これが反応する範囲にさえいれば、学園側が責任を持って探しに来てくれるってことだろ。じゃあ迷子になり放題だ」


こともなげに不穏さが滲みまくっている発言をするノエルくんに、ジーンくんとキャロルちゃんがびしりと固まった。


「というわけでさ、せっかくだから地下水道跡を散策しようよ。また変なものが隠されているかもしれないし、ひょっとしたら白ビグレルの巣にもなってるかも」


薄々察していた提案に、ジーンくんとキャロルちゃんは渋い顔で逡巡している。

俺? 当然乗ります。


「いいですね! 壁抜け魔法が活躍しそうです!」

「うーん、あれはけっこう距離制限が厳しいし、そもそも危険魔法取り扱い免許を取れる程度に習熟していないと危ないよ」

「でもノエルくんは全部覚えているし、使えるのでは?」

「使えるけど」


放っておいても二人だけで探検に出掛けそうなノエルくん(天才問題児)と俺(他国の王族)に、ジーンくん(常識的な平民)とキャロルちゃん(超低姿勢お嬢様)は、グエ! みたいな顔をしながら割って入ってきた。今更だけどこのグループ、ストレスを負う人間が定まりすぎてるな。


「ぜ、絶対に二人だけで行ってはなりませんわよ!? せめて事前にしっかり計画をたてたうえで、四人で一緒に行きましょう……!」

「非常食と水と方位磁石は必ず持つんだぞ! あと可能であれば探索予定範囲を纏めて事前に先生に提出してからにしよう……! マジで……!」


言い募る彼と彼女の表情はたいへん真剣だ。

シンプルにクソ怖い上に危険が予想される大昔の地下遺構への怯えと、ヤバい馬鹿二名が暴走する危険を天秤にかけた結果、付いてくるという選択肢をとらざるを得なかったのだろう。可哀想ですね。きっと二人にはいつか必ず、この友情と献身性が報われるときが来るだろう。主に俺の実家からの慰謝料とかで。

俺が生暖かい笑みを浮かべながらことの推移を見守る中、ノエルくんは半目を閉じたようないつもどおりの顔で、苦労人属性の友人二人の顔を交互に見つめた。


「そりゃ準備はしっかり整えてから行くよ。明日でいい?」

「もっとがっつりしっかり整えような!」


ジーンくんの叫びにより、とりあえず地下水道跡探検計画は実行を延期されたのだった。

再開までの期間が慎重派二人の希望より短かったのは言うまでもない。

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― 新着の感想 ―
ギルベルトさんか第七皇子かと思ったら全員w 「あなたを恨んでいる人」で解釈すると並の人間なら怖くて気絶できるレベル
ライア殿下に罪悪感なんてものがインストールされていらっしゃるんですか!???? マジで!!!!!??????? このシリーズを読んでいて最強インパクトを喰らいました。
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