噂話は茶会の醍醐味
今回って本当にドロドロになる? それだけが心配だよ俺は。
現在は女王選の本番前日の午後。堅焼きビスケットと紅茶で清貧なティータイムとしゃれ込みつつ、それぞれが調べてきた情報を持ち寄っているところだ。ちなみにお茶の用意をしてくれたヴォルフは壁際で控えており、あんまり話には混ざってこないよ。
俺は主に神殿に残るこれまでの女王選の記録と、歴代女王の記録担当。
カタリナさんはそれに加えて前女王選で起きた昏睡事件の記録担当。
クリスさんは他の女王選推薦者からの情報収集担当。
それぞれ役割分担をし、昨日夜に一回、今が二回目の話し合いとなっている。
全員お育ちがいいもんで、室内はポリポリともカチャカチャとも音がしない。立つのはせいぜい衣擦れの音くらい。窓の外で鳥の声やら風の音がしていない限りは、誰か話し出さないとほぼ無音だ。神殿ってのはそういう場所である。
正直この世界の宗教施設やそこに居る聖職者というのは、俺がもといた世界と違い、実際に神が存在するという性質上腐敗が少ない。つまり俺にとって見所が少ない。
さっさと面白い部分だけ摂取して、この娯楽の少ない場所から帰りてえなというのが正直なところである。
カタリナさんはともかく、クリスさんは滞在二日目にして既にちょっとげんなりした顔をしていて親近感があるなあ。まあ彼女の場合、他の推薦者であるおっさん×2およびおじいさん×1といい感じに交流して情報を抜いてこなきゃいけないから、気疲れが強いという理由もあるだろうが。
とりあえずこれまでに得た情報をちゃっちゃと開示しよう。
女王選の起源はおよそ八百年前、この地で布教をしていた神官達が、神殿を中心に大きくなった町の責任者を、町の有力者を交えつつお茶会中に決めたことが始まりだそうだ。
女王の職業と神官長の職業が途中で分離したり、必要な手順の増減や若干の変化を挟んだりはしつつも、ここ百年ほどは概ね変わっていないらしい。
やり方はこうだ。
まず国の有力者が、女神フロルの信者の中から、有力な女王候補を見つけてくる。
推薦者の数はその時々で変わるが、それぞれが連れてくる女王候補の数は一名のみ。
大神殿に集められた女王候補達は、女王選のための部屋で、神官が淹れた茶を饗される。
それぞれが一杯ずつの茶を飲み、それから一人が女王として名乗り出るのだそうだ。
お茶飲んでから、自分、女王です! となるまでの間に何があるのかも教えてくれやと言いたいところだが、そのへんの記述はない。いや書け。一番知りたいのそこだろ。
なお時代によっては飲み物が水や酒だったことも、儀式が別の部屋で行われていたこともあり、次期もとりあえず前女王が亡くなるか辞めるかすれば、というものらしいので、大事なのはなんか飲んで女王が名乗り出る点のようだ。
というわけで、そう。女王というのは辞めることができるものであるらしい。そして辞めたら当たり前に還俗して市井で生活ができる。
基本的には今回のように崩御なさるまで勤め上げることが多いようだが、中には一日で辞めた例もあるそうだ。次の女王選は候補そのまま繰り越したんかな。
女王になってからも、すぐに神託を受け取れた者もいれば、しばらく修行を積んで神託を受け取れるようになった女王もいる。そのへんの力の強さも、女王として選ばれる理由には関係ないのだという。
じゃあどんな人なら選ばれるのですか~? と子供の特権である無邪気さを振りかざして神官さんに尋ねたところ、女王として成すべきことがあるかたですよ、という返答が来た。そうですかとしか言えない普遍的かつ抽象的な文言である。まあ意味も理由もあるんだろう。神様基準では。
ついでに、女王に選ばれた人間は春の女神の加護により、あらゆる毒物への耐性を身に付けるのだそうだ。ちなみにこれは薬効に対しても有効なので、毒は効かないが薬も効きにくくなる。前女王が短命だったのは、親に似て病弱だった体を薬で治療しにくくなったからだ。神の加護というのはべつに個人の役に立つように授けられるものではないらしい。俺みたいなのはまあまあ例外なんだろう。
次に女王候補の推薦者について。
基本的に、この国の貴族は二つに分けられる。
一つは自然派。女王選を流れのままに任せ、神の思し召しに従うという思想の宗派。
もう一つは自助派。女王選に手出ししてなるべく自分がこいつだと思う人間を女王にしたい派。
今回はこの二つの派閥から、それぞれ二人候補者が出ている。
ちなみにクリスさんは自然派で、もう一人の自然派の推薦者は前回、前々回も出たベテランおじいちゃん貴族。候補は孤児院出身の若い女性。
自助派の貴族二名は、前回とは顔ぶれが変わっている。これは例の自浄作用というか、そういうやつで変わったんでしょうね。候補者は修道女のおばさまと神殿の学校で働いているお姉さん。
そして俺が一番気になっている、前回の事件について。
毒や薬に関する加護を持つ春の女神の神殿にふさわしく、ここの庭は毒草も薬草も栽培されており、ノウハウが蓄積されている。
そのため、昏睡事件の被害者さんの症状から、おそらくこれだろうという原因は調べが付いていたらしい。
それはナギスという薬草を主原料として作成された、睡眠薬だ。
五十年ほど前に流行ったもので、無味無臭で非常に飲みやすく効果も高いが、使用者が分量を間違えて昏睡状態になったり、犯罪に使われる懸念があることから現在では市販されていない。ということらしいが、ナギス自体は探せばそのへんに自生しているため、調合方法さえ知っていれば薬の作成は可能だ。
ちなみにこの薬は一般での使用を禁止された当初、中和剤も開発されている。
しかし効果が出るのは睡眠薬の服用後2、3時間以内と限定的で、9時間を超えるとほぼ効かない。
被害者の女性が発見された時には時間が経ちすぎており、一応薬を口に含ませはしたものの、残念ながら効き目はあまりなかったそうだ。
彼女の治療と介護については神殿からも人を派遣して続けているものの、そもそもなぜ昏睡状態に陥るのかという部分の解明から進めなければいけないらしく、進捗は捗々しくないとのことである。
カタリナさんも神官さん達に混じってカルテなどを見てきたらしいが、だいぶ難しい顔をしていたので、まあ回復は難しいのだろう。
神殿には各種毒や薬が保管されており、件の睡眠薬もあるにはあったが、持ち出された形跡はなかったため、外部から持ち込まれたものである可能性が高い。そして当然、事件後の調査で毒薬は見つからなかった。
そのへんのトリックも当然解明されておらず、真相は闇の中。俺という加護持ち人間が呼ばれたところで、証拠もクソもない状況では過去の一件の真相究明は難しいだろう。仮に似た事件を企てている人間がいたとしても、阻止だって今のところ出来る気がしない。
当然カタリナさんからしても難しいだろうと思うんだけれど、今回も名探偵っぷりを発揮してくれると期待したくはある。
そんなわけで、情報は色々と出つつも進展はあまりない。
一通りの報告を終え、どうしようかとおやつ片手に俺が目を伏せていると、ふとカタリナさんが声を上げた。
「ああ、そういえばもう一つ報告があります。ルカが明日あたりこちらへ来るそうです。神殿から連絡を頂きました」
「え?」
驚きの声を上げる俺と対照的に、クリスさんは首を傾げている。お隣の国の王族の顔と名前は知っていたが、お隣の領主についてはまだ勉強が及んでいなかったのだろう。頑張ろうね。
しかしちょっと意外だな。来るには来るにしても、時期はもう少し後になるかと思っていた。具体的には女王選終了後。明日といったら当日だぞ。
そりゃもうバリバリに国の一大事であろう女王選出というイベントのある日に、交流のある友好的なお隣さんといえど、他国の領主なんて神殿に入れてる場合じゃないだろう。
しかし神殿側から女王候補に直接連絡があったということは、来訪はもう決定しているということだ。さすがに首を傾げざるを得ない。
「驚きました。僕のことはさておき、部外者の訪問は断っているものかと……」
「ああ、ルカは前女王の隠し子ですから、そのあたりが関係しているのでしょう」
「え!?」
今度の声はクリスさんとハモった。そりゃそうだろ。
しかしなんてことだ、くそっ! 急に知らん角度から鬱展開の芽がやってきちまった!
めちゃくちゃ複雑そうな家庭で育ちながらあの爽やかさに仕上がっているルカさんについても、お子さんと愛する人を置いて死ぬまで女王を勤め上げた前女王さんについても、無くなった前領主ご夫妻についても、聞きたいことがいきなり増えたぞ。せめて誰か代わりにルカさんへインタビューしといてくれない!?
そう叫び出したい衝動を、驚き顔を維持することでどうにかこらえている俺の横で、クリスさんが耳を押さえて挙動不審にうろうろと視線をさまよわせ始めた。
「あっ、わたくし急に耳が! 小鳥さんの声しか聞こえず! ふしぎ!」
「大丈夫ですよ、そこまで内密な話でもないので」
「ほんとですかぁ!?」
必死で聞こえないふりをしようとしたクリスさんの動揺は理解できる。普通に考えたらまあまあなスキャンダルだ。利用しようという考えでもない限り、知らない方がマシというもんである。
壁際で控えて存在感を消していたヴォルフも、さっきから動揺を隠しきれず視線をすいすい泳がせまくっている。悪いね今日も心労をかけて。
しかしカタリナさんの動じなさは本日もぶっちぎりなので、おそるおそる両手を耳から離すクリスさんに、容赦なく追撃をかけにいく。
「というか、私にも隠し子疑惑があるのではありませんか? こちらの国の貴族の間では」
「わ゛!」
完全に図星のリアクションで奇声を上げるクリスさん。
奇声を上げかけたのを耐えたのかうっかり咳き込むヴォルフ。
横で目をギュッと瞑っていろんなものに耐える俺。
急に剛速球を投げ込んでくるな。事前に軽く匂わせておいてクッションを挟め。
言いたいことがどんどん増えて喉元でつかえてるんだけど、しかしこれは追求しないとアカンやつである。
泰然自若なカタリナさんは、まあそれはそれとして……とか言って話をいつ別方向に持って行くかわからん。俺はおそるおそる両手を胸のあたりまで挙げ、両手を見せた降参ポーズで口を開いた。
「ええと、もし話せないことがあれば断っていただいて構わないのですが、その隠し子というお話について伺っても……?」
「ええ、構いませんが」
まあそうでしょう。でなけりゃ最初から爆弾発言をしはしない。
「まずルカについては、リカイオス前領主とグラキエス前女王の子供です。これについてはファルシール王家と神殿側で話がついており、表向きには前領主夫妻の子供として扱われています。神殿側から、女王の子であるということで何らかの便宜を図ることはしない、と決められたと聞いていますが……、個人的に弔意を伝えに来ることは認められた、というところかと思います」
「なるほど……。いえ、まあ、大変驚いていますが、当事者および国家間で話はついている、と考えていいのですね。
……それで、その、カタリナさんが隠し子ではないかと疑われているというのは?」
「これについてはただの勘違いですね。ルカはリカイオス領の、領主と関わりの深い産婆が取りあげたのですが、彼女がその翌日に双子の男女を取りあげ、その女児側は死産だったそうです。ちなみにこの年に私も生まれています。
それらの断片的な情報を得たごく一部のグラキエス貴族が、私とルカが双子で、女児は死亡したということにしてトゥリーナ家で育てている、という誤情報を組み立てたらしいと」
「……その情報は、リカイオス家が放っている密偵から?」
「そのようですね。私はルカから伝え聞いていますが」
「カタリナさんにも真実が伏せられている、という可能性は……、おそらくないでしょうね」
「ええ。もし私とルカが双子だったなら、私たちの交流に関して、双方の両親がそれなりに釘を刺していたでしょう」
けろっとルカ&カタリナ双子説とかいうある種の鬱展開を、生まれた先から粉砕していくカタリナさん。
いやまあそうですよね。カタリナさんはともかく、ルカさんのあの様子をご両親が見ていたらそれとなく仲を妨害するよね。倫理的理由で。
言われたら納得レベルの話ではあるんですが、まあなんて言うか??
俺を!! もてあそんで!! 楽しいかよ!!
いやべつに楽しんじゃいないよな。ただの情報提供なだけで。
わかってる。わかってるよ。ただここ最近上げて下げてが多くて参ってるんだよ。早く誰かの純度100%の鬱展開をください。そのあといい感じに盛り上げて幸せになってください。
そろそろ息が止まるんじゃないかと自分が心配になってきた……。
しかし、空腹は最高のスパイスという言葉が示す通り、人間は満腹でいるだけでは幸福を感じにくい。
飢えることと満たされることは、セットになることでより素晴らしいものとなるのだ。
だからこの進展しては元の場所に戻るような微妙な話の展開にも我慢することができる。頑張れ俺。負けるな俺。俺はやるときはやれるクズだ。
などとこちらが一人で勝手にダメージを負う一方で、立ち直ったらしいクリスさんは盛大にため息をついた。
「そうでしたのね……。いえ、じつは、カタリナ様を候補に選んだ理由には、女王の親族かもしれない、という理由もありましたの。まあ血縁が女王選出に絡むことはまずないそうですから、二重に意味のないお話ですけれど」
そう言うクリスさんには、やはりそれほど残念がる様子はない。
いくら自然の流れに任せる派閥だとはいえ、ちょっとくらい候補者の推薦理由が減ったことを残念がったって不思議じゃないのだけれど、クリスさんはとことんそのへんの欲求が無いようだ。
ここまでくると、カタリナさんが間者さんとしていた「女王にはならない」という約束について開示しても良い気がしてくる。間者さんの雇い主が誰なのか探りを入れて安全確保のたしにする意味でも、クリスさんが全く障害にならないという確証は欲しいところだ。
そう思ってカタリナさんを伺いながら、俺はそれとなく話題を切り出してみた。
「……それにしても、自助派というのはやはり少々厄介ですね。カタリナさんも妨害を受けたわけですし……」
「ええ。……といっても大事にはなりませんでしたが」
「まあ! そうだとしても、大変でいらしたでしょう?」
痛ましそうに眉をひそめるクリスさんを横目に、俺はカタリナさんとアイコンタクトを取った。この短期間でまあまあ仲良くなったというか、やることが決まっているので意思疎通がずいぶん早くなっている気がする。
小さく頷いたカタリナさんは、幾分声を低めて話を継いだ。
「まあ、結果的には何事もなく済んだといいますか……。詳細は省きますが、毒によって出立の妨害をされそうになり、最終的には妨害者と話をつけまして」
「ええっ!? だ、大丈夫でしたの!?」
「はい。まあその際、女王選に出席はするが女王になる気は無い、と約束してしまったのですよね」
「そうでしたの!?」
驚いて口元を両手で押さえるクリスさん。自分とこの候補者が全然やる気が無いとなれば当然の反応である。
しかし、彼女はそのあとすぐひょいと手を下ろして膝の上で揃え、のほほんとした顔で小さく頷いた。
「そういうことでしたら仕方ありませんわね! 今回は他の派閥の女王に未来への期待を託しましょう!」
いや良いんかーいという昔ながらのツッコミを入れずにいる俺の努力は、端から見て感じている以上のものだということを、どうか皆々様にご理解頂きたい。
良いの?? 良いって言ってくれるかもと期待はしていたけど良いの??
思わずカタリナさんとクリスさんを三往復くらい見てしまったが、カタリナさんが重々しく頷く間も、クリスさんの表情に変化はなかった。
「ありがとうございます。私としては隣国の文化や大聖堂の薬草園に興味があり、女王選に出られることはたいへん有意義で貴重な経験をさせて頂いているという認識なのですが、……推薦者側からすれば不真面目な態度だと受け取られても当然と思っておりました」
「いえいえ、元々推薦自体、場合によってはしないくらいにはうちの派閥は緩いですし……。それに、他の宗派とはいえ、神の加護を持った人間とともにいらっしゃった候補者となれば、もう推薦しただけでメンツはある程度確保されておりますわ! それに隣国の王族のかたと個人的に知り合えたことも、わたくしとしては十分な利益ですわ~!」
「それは良かった」
クリスさんのバリバリにぶっちゃけた発言は、いつも通り裏表がなくなめらかに警戒心を削いでくれる。
計算してこれならよほどの演者だし、天然でこれなら掘り出し物である。エルピナル家も逸材を見つけたもんだな。
つまりクリスさんの余裕綽々の態度は、既にある種のノルマを達成しているが故ということだ。
とりあえず話はスムーズに進みそうなんで、続きは俺が引き受けた。
「クリスさんが寛容な方で良かった。僕としても、カタリナさんには安全に我が国に帰っていただきたいというのが正直なところです。
そのためにも、そして前回のような痛ましい事件が起こらないよう警戒する意味でも、他の推薦者のひととなりを知っておきたいのですが……」
どうっすかね、行けますかね。
一応申し訳なさと遠慮を顔面に出しつつ、俺は俺がより可愛く見える角度で首を傾げた。
前回までは参加者達でのお茶会なんかもあったらしいが、今回は候補者は候補者同士、推薦者は推薦者同士での交流に留めことを推奨されている。推薦者とよその候補者が会う場合、双方なるべく二人以上で、あるいは人目のある場所で会うようにと通達があったそうだ。
まあこの状況下でよその候補者に会いたいななんて抜かす推薦者はいないようなので、現在は候補者同士、推薦者同士が、それぞれの交流用にと用意された部屋で暇つぶしに会話をする程度のやりとりしかない。
その中で急によそ様を訪ねに行くというのは、まあまあ波風を立てる行動と見られなくもないだろう。
俺個人としてはどんどんやっちまおうぜとしか思わないにしても、クリスさんのお家的にOKなのかは知っておきたいところだ。
クリスさんは顎のあたりにちょこんと片手の指先を当て、斜め上を見て少しの間考え込む。
「そうですわねえ……。
でしたらやはり疑うべきは自助派のお二人でしょうが、であればこそ、わたくしと共にとはいえ、カタリナ様やライア様が直接伺うのは難しいかもしれませんわね。
わたくし見てのとおり若輩者ですから、知識としてはさておき、女王選についての経験は全くございませんの。
同じ自助派のフロラキス侯爵でしたら、今回で女王選は三回目。きっと知っていらっしゃることも多いと思いますわ。
というわけで、全員でフロラキス侯爵のところへ行ってみましょう!」
朗らかにそう提案するクリスさんに、俺は逸る心を抑えて慎重を期し一旦確認を入れる。
ヘタしてあとで国際問題になっても困るからな。いや今更なんだけど。
「……大丈夫ですか? 同じ自然派とはいえ、一応別派閥ではあるのでしょう?」
「はい! でも仮に何かあったとしても、責任は殿下やカタリナ様ではなく、私が取ることになるでしょうから、大丈夫です!」
思っていた以上に覚悟が決まりすぎていた。社会的死に対して受容しすぎだろ。
……いや、もしかしてそういうことか?
「ぶしつけな質問なのでご無理でしたらお答えにならなくてもよいのですが、もしかして責任を取ったあとは、どこか長閑な領地をもらってそちらで暮らす、という流れなのでしょうか?」
「あ、そうですの! これまでの女王選で何かしらやらかした人だとか、政治的にいろいろあった人たちが暮らすための村のようなところがあるのですよ。
賑やかな場所ではありませんが、なかなかよいところで、過ごしやすいそうですわ!」
「そうでしたか。教えていただきありがとうございます」
やっぱりこれアレだ。ヤクザが出所後の生活を保証してもらった上で、なんかしらの罪を被ってお勤めするのと近い制度だ。
ケジメつけて引退する貴族が多すぎてそんなことになってるんだろう。
とんでもねえな。どこを目指して突っ走ってんだよこの国は。その村に訪問したい気持ちは当然あるが、それはそれとしてドン引きである。
しかしよそ者の俺が口を出すことじゃないので、礼儀正しく曖昧な笑顔で頷いておくしかない。アルカイックスマイルはこの世で一番便利な顔です。
いやまあなんにせよ、部外者である俺が他の候補者や推薦者と直接話ができるのは、ありがたい機会だ。
せっかくよその国まで旅行に来たんだから、楽しめるだけ楽しむべく、やれることはなんでも挑戦してみないとな!
次回更新は6月末か7月頭あたりを予定しています。
更新範囲は多分女王選編最終話までです。




