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家に帰るまでが冒険です!  作者: 氷上人鳥
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家に帰った後も冒険です!

「彼の身体だけ、何だか時間が止まっているように見えます」


 占い師さんが僕に告げたのは、そんな言葉だった。

 普通に動いて喋る魔王の姿からは想像できない、まさに占術だからこそ見えた特徴と言って良いだろう。

 そして、そう仮定すればあの無敵状態も説明が付く。身体の時が止まっているのならば、いかなる変化も受け付けないのはむしろ当然だ。



「てめぇ何しやがった?」


「止まっていた君の身体の時間を、この世界の時間と同期させたんだ。これで君も腹が減るし、傷付きもするようになるはずだ」


「何だと!? ハッタリ言うんじゃねぇ!」


「ハッタリかどうかはすぐに分かる。それじゃ、さっきの約束を果たさせてもらおう」


「応! やってみろや!」


「君にも酌むべき事情があるのかも知れない。だが、君がこの世界でやってきた事は、やはり許されない悪だ……じゃあな」


 周囲への影響さえも考えず、僕は発動し得る最大威力の雷撃を魔王に叩き込んだ。これで苦しむ暇さえ無く一瞬で、跡形も残さず彼を殺せただろう。


「感情なんて、有れば良いなんてものじゃない。ましてや他者から強制されるなんてもっての外だ……」


 一瞬の閃光と轟音が止んだ後、少なくともこの部屋に彼の姿はなかった。


「……これで、終わったのですか?」


「うん、たぶんね。念のためこれから確認するけど」


 ここにいない以上成功しているはずだが、あの方法が必ずしも正しかったとは限らない。

 そう考え改めて部屋を調べると、魔王がいた場所のさらに後ろに、あまり見たくなかったものを見つけた。


「有ったか、隠し通路」


 この存在は、魔王が生き延びている可能性を意味する。

 さっきの雷の衝撃で開いたようにも見えるが、調べない訳にはいかない。


「さぁ、行こうか」


「はい」


 奥の通路は、今までとは違い金属っぽい謎の材質でできている。何だかここから先は別の建物であるかのようだ。

 通路そのものはそれほど長くはなく、割とすぐに突き当たりに辿り着いた。


「魔王は……いませんね」


「何故こんな物がここに?」


 そこにあったのは、どちらかと言えば僕の側に馴染みのある構造物だった。

 円盤状の装置を中心に、大きな箱がずらりと並んでいた。


「ここ、何でしょうね?」


「僕の元いた世界で似たような物を見た気がするけど」


 よく見ると、並んだ箱の隅っこが四角く光っていた。どうやらディスプレイのようだ。そしてあの箱の列はサーバーなのだろう。


「やっぱりアレっぽいな。あれ? これって……」


 表示されている文字が、僕側の世界で最も広まっている言語、英語だった。


「これなら読めるかも……何々? 転送、装置……転送!?」


 まさか、ただ役目を果たすために魔王を討伐したその先に、求めていたものが直接あるとは思いもしなかった。


「わ! どうなされたんですか?」


「驚かせてごめん。この装置は、どうやら僕が探していたものみたいなんだ」


「それって……」


「元の世界に帰る方法だよ」


「あっ」


 早速僕はディスプレイのそばにキーボードを見つけ、何とか操作できないか調べ始めた。


「え~と……転送履歴? 約五十年前に、地球から人間一人を転送、転送時に不具合を確認……電力不足が原因」


 これが最新の、と言うより残っている唯一の履歴らしい。


「つまり、この不完全な転送をされたのが魔王?」


 まとめると、転送事故により五十年前のこの世界に飛ばされ、事故の影響により身体の時が止まった状態になった。

 その五十年の間に何があったかは確かめようが無いが、結果彼は魔王としてこの世界の敵となる道を選んだ。


「彼は長い時間、たった一人で何を思ったのだろうな……あ、ごめん、退屈だったかな?」


 さっきから一人ではしゃいでいたと言うのもあるが、占い師さんが俯いたままじっとしていた。


「いえ、その……」


 妙に深刻な表情で、次の言葉を言いづらそうにしている。


「お別れ、なんですよね」


「そうだね。この装置がちゃんと使えたら、僕は元いた世界に戻る。確かにお別れだけど、君達の生活を脅かす魔王はもういないんだ」


「はい」


「それに、魔王と話していて気付いたんだ。僕自信もまた、この世界にいてはいけない異分子に過ぎない事をね」


「そんな事は……」


「おそらく、君に余計な感情を与えてしまったのは、他ならぬ僕なのだろう。そう言う意味では、僕も魔王と同じく、この世界を汚染してしまう存在なんだ」


「この気持ちは、余計なんかじゃありません。そうじゃなければ、私は……」


 まだ芽生えて日の浅い感情をコントロールしきれないのだろう。今感じてる辛さこそ僕のせいだと言う事実に、思考が及んでいない。

 でも確かに、彼女をこのままにはできない。なので、僕は彼女に選択肢を与える事にした。


「なら、どちらにするかは君が選べば良い。僕を召還してからの全てを忘れて元の生活に戻るか、あるいは今までの全ての生活を捨てて僕と一緒に来るか」


「!! ご一緒しても、よろしいのですか?」


 彼女は驚いたように顔を上げ、即答した。はなっからそのつもりだったみたいだ。


「もっと良く考えた方がいい。あっちの世界には、こんな装置は確実に無い。それどころか魔法すら存在しない。何もかもが違う、知ってる人が僕しかいない世界で、これからずっと生きる事になるんだ」


「でも、あなたがいます」


「……あっはっはっはっは!」


 これは参った。思った以上に、彼女は強情な性格だったらしい。


「分かったよ、一緒に行こう」


「はい、ありがとうございます!」


 前にも同じやり取りがあった気がするが、なるほどあの時すでに手遅れだったようだ。


「それじゃあ、これを操作してみるから、ちょっと待ってて」


 そこからが意外と大変だった。

 普段あまり使わない英語を必死で読み取り、実は全然足りなかった電力を補充したり(魔王に放った雷撃で偶然再起動したらしい)。

 転送後の時間や座標を事細かに設定し、ようやく準備が完了した。


「あちらの世界、楽しみです」


「その度胸は称賛に値するよ」


 余計な不確定要素を省くため荷物類は全て捨て置き、中央の円盤から僕達はあちらの世界に飛んだ。



「帰って来た……」


 そこは確かに、勝手知ったる僕の部屋だった。カレンダーを確かめると、召還されたのと同じ日の未明だった。


「――――――――」


 もちろん彼女もそこにいる。当然自動翻訳など無いので、言葉はもう通じない。


「まずはそこからかな」


 これから、目に見えているだけで大量の問題がある。おそらくまだ気付いていない問題も出て来るだろう。

 それでも僕達は、この道を選んだ。直接選んだ彼女はもちろん、僕にも後悔は無い。


「よし、始めるか!」


「――」


「この状況でそんな笑顔でいられるなんて、本当に頼もしい限りだよ」


 自分の部屋(ここ)にいる時には想像もできなかった全く新しい一日が、ここから始まる。

最後までお付き合いくださりありがとうございます。

お楽しみいただけたなら幸いです。

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