魔王の正体
「浅はかだな」
性に合わない魔王を演じ、幼稚な理由で人々を困らせるバカ。
それが、僕が彼に下した結論だった。
「んだとてめぇ!」
「仮にこの世界の人類が君の言う通りの存在だとして、それの何が問題なんだ? 確かに、僕達とは全く違う生き物なのだろう。でもだからって、彼らが君と同じである必要があるのか?」
「うるせぇ! てめぇはアイツらが気持ち悪く無ぇのか?」
「気持ち悪い? むしろ僕達より進化した、人類の上位互換だと思うけど」
「……くっくっく、あっはははははは! さっき間違って連れて来られたみたいな事言ってたが、元々来るはずだった奴より、てめぇの方がよっぽど勇者にふさわしかったんだろうぜ」
怒ったかと思えば急に笑い出したり、彼はずいぶんと感情の起伏が激しい男である。
「てめぇがどんな奴かはだいたい分かった、おそらくこれ以上の話しは無駄だろうな。さて、俺も主達みたいに殺すか?」
「……最後にこれだけ。どうしても、人々への嫌がらせを止めるつもりは無いのか?」
「ったりめぇだ」
彼があくまで魔王であり続けるのであれば、僕も覚悟を決めて勇者をまっとうしよう。
「うん。なら僕は、勇者として君を殺す」
「上等だ、来いやぁ!」
まずは恒例となりつつある、様々な属性の攻撃魔法を撃ち込む。配下でさえあんな厄介な能力を持っていたのだから、魔王ともなればとんでもない防御力を持っていると考えるべきだろう。
粗方撃ち終えたその先には……
「あぁ痛い痛い……なんてな」
そう言いながら、全く無傷の魔王が立っていた。
「やはり、簡単には行かないか」
「この身体にはどんな攻撃も通じねぇぜ。ついでに年も取らねぇし、飯食ったり息する必要すらねぇ。俺は永遠にこのままだ」
果たしてそれは、生きていると言えるのだろうか?
しかし、今僕の目の前に存在する事だけは確かである。
「もしかして、もう終わりか?」
「それは無いけど、いろいろ考え直す必要はあるかな」
「精々足掻いてみせろよ。まぁ無駄だろうけどな」
まずは彼の身体の秘密を解明できなければ話にならない。今度は一つ一つ攻撃に対する反応を見ながら、想像し得るあらゆる可能性を探っていった。
その結果……
「嘘だろ? これじゃまるで完全剛体じゃないか」
実体はちゃんとあり、その上であらゆるエネルギーや状態変化を受け付けなかった。強烈な放射線による原子分裂さえも全く起こさないのは、さすがに予想外だった。
「ならどうして動けるんだ?」
「俺が知るかよ。この世界に流れ着いた時にはこんな身体だったんだよ」
正直、お手上げだった。彼にダメージを与える方法が全く思い付かない。
内心焦る僕をよそに、魔王は視線を僕より後ろの方に向けていた。
「そこに誰かいるのか! ……おっと、これじゃ聞こえねぇか。そこに誰かいるのか!」
魔王がなぜか同じ台詞を二度言った後、扉の向こうにいた占い師さんが出て来た。
そのまま彼女は僕のすぐ後ろまでやって来て、震えながらも真っ直ぐに魔王を見据える。
「魔王……」
立っているだけでギリギリなのだろう、後ろから僕の服の裾をこっそり掴んでいる。
あれ? 別におかしくは無い反応なのに何か引っ掛かる。
「ん? お前……ははは、そうか、既にいたのか! こいつは良いものを見た」
「魔王は一体、何を言っているのでしょうか?」
「あっ」
僕も今気付いた。
魔王と話しをしてから感じていた違和感、その正体が占い師さんの存在だったのだ。
彼の話を信じるならば、今の彼女は明らかに異常だ。不安から他人を心配したり、恐怖に怯えたりするその姿は、まさに魔王がそう変えたかった人間そのものだ。
「俺のやってきた事は間違いじゃ無かった、つまり俺こそがこの世界に必要な存在だったって事だ。どうせ俺を殺せやしねぇエセ勇者なんざ、諦めてとっとと帰りやがれ!」
ここまでか。
彼の言い分が正しいとはどうしても思えないが、為す術が無いのも事実である。
「あの、勇者様」
今背後からすごい呼び掛け方をされた。
「え?」
「あっ、ごめんなさい。私の中で、あなたを暫定的にそうお呼びしていたので」
彼女もこちらと同じ事をしていたらしい。
「うん、それは今はいいよ。それより何?」
「はい、あの魔王なのですが」
「何か分かったの?」
「はい、それが……」
念のため耳打ちでこっそり聞いたその内容は、僕が出せなかったまさかの答えだった。
「いくら今気分が良くても、目の前でイチャつかれたらさすがにムカつくぞ」
「悪い。でもこれで君を攻略する方法が分かった」
「言い方が気色悪いわ! で、どうするつもりだ?」
「こうするんだよ」
僕は魔王の無敵化を解除する方法、すなわち彼の時間を動かす魔法を掛けた。