魔王の真意
酔いが醒めちゃんと動けるようになった後、まずは周辺の調査、特にあの主の安否の確認を始めた。
「近くで爆発音がしたって話だけど」
「むしろ、ここが爆心地ではないでしょうか?」
僕もなんとなくそんな気がする。
僕が倒れていたそこは草一つ生えておらず、黒っぽい地面が広がっていた。もちろん、僕が主に会う前にこんな場所を通った記憶は無い。
だとしたら……
「そうだ、この近くに建物はなかったかな? 見るからに異様な感じなんだけど」
「いいえ、私は見てませんが」
近隣を少し見て回ったが、確かにあの建物は見当たらなかった。
これはもう、この結論で間違い無いだろう。
「つまり酔った僕が、主を建物ごと爆破したって事か」
「そう、なのでしょうか?」
「とりあえず、そう言う事にしておこう。さ、次はいよいよ魔王だ」
「はい」
「……でもその前に、戻って一日だけ休ませて」
「そうですね、無理しても良い事はありません。まっすぐ歩けますか?」
「大丈夫、ありがとう」
こうして僕達は街に戻り、もう一泊すると共に二人分の荷物整理をした。
「え? ここ?」
「はい、間違いありません」
翌日、再出発してから丸一日。
僕達は、一見何の変哲もない断崖絶壁の前にいた。
「私の占術で改めて魔王の居城を調べたら、ここにあるとの結果が出ました。場所的に近くなったのと主が一部いなくなった事で、かなり精度の高い結果が出せているはずです」
「とは言え、一体どこに……うわ!」
何となく正面の壁を触って調べていたら、その一部が幻影だったらしく、思わず壁の中につんのめってしまった。
幻影だと分かれば後は容易い。光を操作してそれを打ち消し、ついでに先にも明かりが届くように調整すると、そこは岩を削って作られた通路のようだった。
「大丈夫ですか?」
「うん、さあ行こう」
占い師さんがいなければ、ここに辿り着けていたかどうかさえ分からない。僕は、偶然とは言え彼女と一緒にここに来れた事を感謝した。
岩の通路の突き当たりには、いかにもな感じの石造りの大扉があった。
「君はここで待ってて」
「……分かりました」
今まで通りなら身の危険は無いだろうが、うっかり僕の魔法が当たったり、魔王だけは例外だったりする可能性がある。
なので占い師さんにはここで待機するよう告げると、僕は気圧を操作して大扉を開け(思ったより軽く開いたっぽい)、魔王がいるそこへ足を踏み入れた。
「良く来た、魔獣狩りの勇者よ」
「僕は人違いで喚ばれた身だけどね。それにしても……君が、魔王?」
目の前に現れた魔王のその姿に、僕はとても驚いた。僕と同じく異世界から来た事は知っていたが、それがまさかの……
「普通の、人間?」
僕の何気ない問いかけに、魔王はニヤリと笑みを浮かべた。
「何だ、エイリアンみたいな化け物でも想像してたか?」
「!!」
僕は更なる驚きに言葉を失った。
固有名詞が聞こえた。それはつまり、彼の言葉は例の自動翻訳を通していない事を意味する。
「俺はてめぇと同じ世界の、それこそ同じ国の人間だよ。てめぇとは違う方法でこの世界に流れ着いた、な」
その事実は衝撃だったが、いつまでも驚いてばかりもいられない。
これからどうするにせよ、まず彼に聞いておかなきゃいけない事がある。
「何故君は、魔獣を操って人々に嫌がらせをするんだ? こんな世界に飛ばされた事への八つ当たりなのか?」
「なぁ、てめぇはこの世界の人間を見てどう感じた?」
すると魔王が突然、不思議な質問を投げ掛けて来た。
「どうって、僕が接した人達は皆穏やかで、冷静で、恐怖や不安に負けない強さがあった」
「まぁ表向きそう見えるわな。何せあいつらには、そんな感情が始めから無いんだからな」
「恐怖や不安が無い?」
人間である以上にわかには信じ難い話だが、始めからそんな生き物だと言われればそれはそれで合点が行く。何となく違和感は残るが。
「それどころか、ここの人間は闘争心も、嫉妬心も、怒りすらも無ぇ。そんな無い無いだらけの生き物が人間であってたまるか! だから俺は、あいつらに思い出させてやるんだよ。色んな感情をすべて持って初めて人間なんだってな」
なるほど、それがあの主が言っていた言葉の意味か。
「それなら、人に直接危害を加えなかったり、やる事がいちいち小さかったのは何故なんだ? その目的だけなら、もっと派手にやった方が効果は出ただろうに」
「別に俺はガチで人間と敵対したい訳じゃねぇ。要はあいつらに奪われる恐怖や戦う気持ちを取り戻させりゃ良いんだから、すぐそばに居続ける"敵"として置いといてやればそれで済むんだよ」
魔王を名乗り、宣戦布告までしておきながら、よもやここまでヘタレだとは。
それはともかく、これで魔王の目的、その真意は知る事ができた。ならば次は、こちらが答えを出す番だ。