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家に帰るまでが冒険です!  作者: 氷上人鳥
6/9

意識と共に消える真実

 様々なゲーム等でよく見るが、実際にはどんな状態なのか分からない状態異常、混乱。

 こちらの思惑を読み、対策を講じてくる相手に対抗するには、()()()()()()()させれば良い。

 それが、僕がかつて見知った方法である。


 主の元から一旦退いた僕は、それを実行するための方法の準備を始めた。

 まず考えた結果、現実的な所で混乱に近しい状態は、おそらく泥酔であろうと判断した。


「まさか、偶然買ったこれが役に立つなんて」


 街に戻り直接酒類を買っても良かったが、ちょうど良い物を今持っているのを思い出し、試してみる事にした。

 フルーツを瓶の中で発酵させ、果実酒を作る。そのための環境作りは、むしろ精霊術の得意分野である。

 まずは温度を調整し菌の活動を促進する。


「でもこれだけだと完成するのにかなり時間が掛かる……そうだ!」


 そしてこの際なので、存在があやふやだったある魔法を試してみる事にした。

 理論上、時間の流れもまた自然の理の一部のはず。ならば、精霊術をもって操作できるかも知れない。

 他とは異なり自然には起こり得ない現象だが、映像の早送りのイメージで、時間加速を魔法で再現してみた。


「おお」


 すると瓶の中で果物がみるみる形を崩し、液状化していく。

 原型を留めなくなった所で処理を止め、味見をしてみると、ちゃんとアルコールっぽい味と匂いがした。


「成功だ。これであいつに……」


 実際には泥酔した先は運任せになるが、そこはもう自分を信じる他ない。

 出来上がったばかりの果実酒もどきを手に、僕は改めて主に挑みに向かった。



「おや、こんなに早く戻って来るとは。忘れ物でもしたのでしょうか?」


「いや。お前を打ち倒す手立てを用意して、再戦を挑みに来た」


「どうやら、想像以上のおバカさんだったようですね。まだそんな事を言ってるだなんて」


「それはどうかな?」


 僕は例の瓶を取り出し、少しずつ中の液体を飲み干していく。

 正直言って味は酷い。調整もせずにただ発酵させただけなのだから、それは承知の上である。


「あなたは一体、何をしているのですか?」


「こちらの思惑が読めるのなら、これから僕が何をしようとしているか分かるだろう?」


「酒を飲んで酔いたい、なんてのが何に……あなた、正気ですか?」


「お前に勝つには、これ位は必要だろうからな。さて、そろそろか」


 だんだん顔が熱くなり、意識がおぼろげになっていく。

 いわゆるほろ酔い状態、酔いを楽しむならこの位が丁度良いが、今だけはまだ足りない。その不味さと徐々に悪化する気分に耐えながら、どんどん飲み進める。


「敵が目の前で、こんな事をしてる、のに……うっ! 本当に、そちらから、手出ししないんだな……」


「     」 


 何か答えたのであろう主の言葉は、結局僕の耳には届かなかった。



「あ、頭痛い……」


 頭はズキズキ痛み、全身はだるさでまともに動かせない。かなり重い二日酔いの症状だ。

 まあ前後不覚になるまであんな粗悪な酒を飲んだのだから、それも仕方ない。

 だが、結果は確認する必要があるので、まずは重い目蓋を開ける。


「気が付かれましたか?」


 すぐ目の前に、ここにいないはずの顔がまたあった。

 まだ酔いが醒めていないらしい。ちゃんと覚醒するため、目を閉じて改めて休もうとすると……


「あわわわわ! 大変です!」


 ただでさえ痛む頭に響く騒がしい声が、ここが夢ではなく現実なのだと思い知らせて来る。


「ちょっとまだ体を動かせないけど、僕は大丈夫」


 何とか言葉を絞り出し、何故かいる占い師さんを落ち着かせる。

 そうこうしている内に、ちゃんと脳が機能を取り戻し始め、周囲を確認する余裕が出て来た。

 僕は今、屋外の地面に寝そべっており、彼女に膝枕されていた。本調子でない事もあり、何故彼女がここにいるのかはとりあえず保留にした。

 ちなみに、周囲にあの主の姿は確認できない。


「知ってる限りで良いから教えて。僕は何をやって、あの主はどうなったの?」


「それは……」


 話をまとめると、今回彼女は何も見ておらず、大きな爆発音が聞こえた後にここに来ると、地べたに倒れる僕だけがいたらしい。


「とりあえず、介抱してくれてありがとう。もう少ししたら動けるようになるから」


「はい。それよりこちらも教えて下さい、あなたに一体何があったのですか?」


 僕はここの主と遭遇してからの一連の流れを、かいつまんで説明した。


「だから、今僕が動けないのは、怪我とかじゃなく泥酔の残りなんだ」


「そうでしたか……」


 釈然とはしないようだが、とりあえずは納得してくれた。


 静かに時が過ぎ、体がようやく脳の指令に従ってくれるようになった頃。


「やっぱり、帰りませんか?」


 唐突に、占い師さんがポツリと呟いた。

 彼女の言いたい事は分かる。前回はああ言ったが、それでも心配なんてものは自分で制御しきれるものではない。

 僕がやろうとしている事が、正義に基づいた正しい行為でない事も理解している。事実僕は、無抵抗の相手を惨殺しているだけだ。

 それでも、僕は。


「それはできない。戦うかどうかはともかく、一度魔王に会って話がしてみたい。今の僕はそう思うようになってしまってるんだ」


「そう、ですか……でしたら、私もご一緒してはいけませんか?」


「それは……分かった、一緒に行こう」


 こんな状態の彼女を無理矢理一人で帰らせても、まともに仕事もできないだろう。そう考え、僕は同行を承諾した。


「ありがとうございます!」


 この時の彼女の笑顔は、今までと何かが違うように感じた。

 そしてその程度の違和感だったが故に、その時の僕には気付けなかった。

 僕が彼女の言動を普通に理解できる事が、実はすでに異常な状態なのだと。

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