届かない真実
次の目的地への道のりは、前の村から三日ほどかかる距離だった。
基本徒歩での移動を想定しているが、少しでも速くて楽になるよう、魔法で何とかならないかと試してみる事にした。
風や氷など、移動の補助に使えそうなものを操作していろいろやってみたが、どれも失敗に終わった。
「う~ん、うまくいかない。まあよくよく考えてみれば、宙に浮ける程の風って相当な暴風になるか」
結局、当初の予定通り三日かけて歩いて向かう事になった。そのための食糧は持ってきているし、水は側を流れる川から酌めば良い。ちなみに僕は生水うんぬんは元から気にしない方だ。
目下の懸念事項だった寝床も、快適さはさておき安全面は問題無く、無事に野宿する事ができた。
そして辿り着いたそこは、最初の町よりさらに大きな都市だった。
人も、建物も、その密度が明らかに違う。
「これ、店を探すだけで日が暮れるかも」
到着したのはちょうど昼に差し掛かった所。先程最後の携帯食糧を食べたので、今はほぼ手ぶらと言って良い身軽状態だ。
なのでここでは、先々の分の食糧調達をしなければならない。
そして、久々にベッドでゆっくり眠りたい。
「物価がちょっと心配だけど、選り好みしなければ大丈夫だと信じよう」
案の定、食糧品店を見つけるのに相当苦労した。人や物で溢れる都市部の移動は、下手な獣道より大変だと思い知った。
「さて、何を買おうか……」
持ち運びが容易で、少量でお腹に溜まる物が望ましい……が、こちらの世界の食べ物なんて、実際数える程しか触れていない。
そんな中、思わず目を引く一品があった。
「綺麗だし美味しそうだけど……」
そこは果物屋で、僕が見つけたのは瓶にぎっしりフルーツが詰められた物だった。……ん? 瓶? しかも透明の?
「おやあんちゃん、そいつが気に入ったのかい?」
気前の良さそうなおじさんが、笑顔で話しかけて来た。どうやらこの店の店主らしい。
「ええ、特にこの透明の器が珍しいなぁと」
「お、あんちゃん目敏いねぇ。確かにそいつは、遠くのとある地方でしか作られていない特別な器だ。もっとも、それに果物を詰め込んだのは、俺の母ちゃんの案だがな」
おじさんのアイデアじゃないのか。
「それなら、高いのでしょう?」
「そいつは試作品で、その現品限りだが百――で良いぜ」
意外な事に、お金の単位がなぜか固有名詞フィルターに引っ掛かった。文脈から分かりこそするが、結構不便である。
「結局、買っちゃった」
買い物を済ませ、空いている宿も見つけて、ほっと一息。三日ぶりのベッドに寝転がりながら、僕はあの瓶詰めフルーツを眺めていた。
「まぁ予算内で収まったから良しとしよう」
意外と馬鹿にならない重さだが、後悔は無い。
明日からまた長旅の予定なので、その日は普段より早めに眠りについた。
「ほっほっほ、あなたが"無限"の主を討った勇者ですか」
翌日、次の主のいる場所に来てみれば、やはり即面会できた。
前の主同様、奇抜すぎるデザインな建造物の中央で、堂々と待ち構えていた。
「本当に、お前達は人類に何がしたいんだ?」
「それに答える義理は無い、と言いたい所ですが、少しだけ教えてあげましょう。魔王様は、この世界の人々に思い出して欲しいのです。自分達が失った、大切な物をね」
「失った? 一体何を?」
「さて? 私が語れるのはここまでです。その先を知りたければ、私を倒し、魔王様に直接お尋ねする事です。もっとも、それは不可能でしょうけどね」
目の前にいる主は、見た目は典型的な宇宙人が人間の服を着たような感じで、前回みたいにバリア的な物も見当たらない。
とりあえず適当に攻撃魔法を撃ってみる。しかし……
「無駄ですよ。私には真実を見抜く力があります。あなたが次に何をするのかを事前に察知し、あなたが行動に移す前に、万全の対策を講じる事が出来るのです」
ならばと、考え得る様々な属性で攻撃を試みるが、いずれも結果は同じ。
何をやっているかは分からないが、無傷の主がそこにいるだけだった。
「つまりは何をやっても……」
「はい、私には決して届きません。どうです? 諦める気になりましたか?」
いたなぁ、そんなゲームのボス。
本当に偶然だが、僕はこんな能力と、その対処法に心当たりがあった。
しかしそれにはある種の精神操作が必要で、精霊術では再現不可能だった。
「さすがに無理か。一旦出直そう」
「ほっほっほ、どうやら身の程を理解したようですね」
「確かに、お前には対策を立てないと太刀打ちできないようだ。また来る」
「おや、まだ理解できていないようですね。どんな策も、この私には無意味だと言うのに」
僕は主の打倒のため、一度引き返す事にした。