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自由を求めた人形の話

作者: モモ、ツウィペン

瑞13歳 蒼5歳

 蒼は水を掴み加速し、海をかき分け自由を全力で味わっていた。自分の意思で好きなように泳げる。生まれてから今まで渇望していた本当の自由を手に入れた。そのはずだった、、しかし、蒼を言いようのない孤独感と不自由が混ざった大きな穴に彼女は胸のあたりを襲われていた。理由はわかっている、彼女は認めたくなかったがやはり彼のいないこの広大な海は自分には持て余す。あんなにも嫌っていたはずの人間なのに、、「瑞、どこにいるの?あなたがいない自由は、狭い狭いあの水槽の中、身動き一つできないあの場所よりよっぽど不自由だよ。」蒼は心の中で瑞にそう問いかけながら広い、、広すぎる海を掴み不自由な自由を背びれで蹴って広大で窮屈な海の中を泳いでいた。

 瑞10歳 蒼2歳

 瑞は、息を飲んでその水槽を眺めた。正確にはその水槽の中にいるヒトとも、サカナとも取れる美しく舞う違和感を眺めていた。「失礼ね、なに人のことジロジロ睨んでるの!」あぶくとともに聞こえたその声は不思議と明瞭で、透き通るような音で瑞に問いかけた。もしくは問いただしたと表現する方が正しい、それほど敵意のある声だった。瑞はその声のする方を見たがそこには、先程から見惚れていた美しい生物しか見当らない。瑞はまだ幼いこともありすぐにその謎の生物の存在もその生物に全力で敵意を向けられているこの状況も受け入れることができた。「ごめんよ、きみがあまりに綺麗で」そう言って、彼女の方を見ると頰を赤らめて「バカじゃないの?ほんっとに人間の言うことは意味わかんない」瑞は自分の発した歯の浮くような台詞に気づき頰を赤らめた。「ごめん、その、、そんなつもりはなくて、君すごく疲れてるように見えるけど大丈夫?」場をとり持とうと何の気なしに言った言葉だったが彼の心根の優しさが現れた言葉に彼女はこの人なら本当に信用してもいいのかもしれない、、切な希望を持って彼女は彼に言った「お願い!いえ、お願いします!!私はもう何日もご飯を食べてないの、なんでもいいです。私に食べ物を分けてください」この少女は生まれた時から瑞の父であり、彼女を含むたくさんのコレクションの飼い主であるオーナーに虐げ育てられてきた、もちろん人間にあんなに優しい言葉をかけられたことなど一度としてない。そんな彼女が人間に頼るのは大きな決心である。世界にとっては何十億も交わされる台詞の一つでしかないこの台詞はたしかにこの2人とこの2人を取り巻く環境をいや、運命を大きく変えることになる。瑞は、「もちろん!少し待っててね!」そう言って自分の残り少ない食料である、おにぎりを水槽の中にいれてあげた。よほどお腹が減っていたのか、彼女は泣きながら「おいひい、おいひいよ、、本当にありがとう」そう言いながらおにぎりを頬張っていた。その時、瑞もまた、大きな決心をした、自分のすべを犠牲にしても、この世の全てが不幸せになろうとも彼女だけは幸せにしよう。まだ幼い彼がこの気持ちがなんなのか理解した時きっと自分たちの理不尽な運命に冷たい怒りを感じるのだろう。

 それから毎日瑞は彼女のもとに行き彼女と他愛ない話をし、かけがえのない時を全力で楽しんだ。

「ねぇ、瑞にとって自由って何?私はこんな狭い水槽で一生を終えることを自由なんて言わないと思うの。」彼女は、広くて蒼い海に憧れていた、「僕の中での自由は君とは少し違うかもしれないよ?たしかに全く制限がないことを自由っていうのも正しいことだと思う。でも、僕は大好きな人がいて、絶対に譲れないものがあって、、そんな誰でも出来て、簡単で難しい、そんなものが自由なんじゃないかな?と思うよ。」この価値観は生まれてからほとんど人と話さず価値観を広げるすべは瑞と話すことだけだった彼女には難しかったのかもしれない。彼女は怪訝な顔をして「なにそれ、意味わかんないわ!じゃあ、私もこの狭い水槽でも自由を手に入れられるそう言ってるの?」瑞は優しく微笑んで「そうだね、やっぱり君には広い海で美しく泳ぐ、そんな広大な自由の方が似合ってるよ!」そんな他愛ない会話は彼らの友情とは違う感情を育んでいくのだった。

 そんな生活が一年経とうとした。そんなある日、瑞は彼女にこう聞いた。「ねぇ、君はなんて名前なの?」瑞も彼女もお互いの気持ちに気づき始めていた。それなのに、いまだに名前を知らないのかと、そう思うだろう、、しかし彼が今となって名前を聞くのには理由がある。彼女には名前がないのだ、もちろん瑞はそのことを知っていたが、やはり名がないのは可哀想だと思い自分で名乗れる名前を作ることを促したのだ。「自分の名前なんて考えたことなかった、あなたにしか頼めない、いや、あなたにしか頼みたくない、私に名前をくれない?」その言葉を聞いた瞬間に瑞は彼女に長い間抱いていた感情が何なのか確信に変わった、それほど彼と彼女の価値観で名前は大きなことなのだ。「わかった!少しだけ考えさせて!君にぴったりの名前を考えるから」瑞は心から嬉しそうににっこりしてそう答えた。彼女は彼のこう言う部分に惹かれたんだ、そんなことを考えながら幸せな一瞬を過ごすのだった。「決まったよ!水が似合うし、瞳が蒼いから君の名前は蒼だよ!改めてよろしくね蒼!」蒼は身体中の皮膚が泡立つのを感じた。「蒼、、なんて素敵な名前なの!本当に嬉しいよ!」こんなに素直な彼女はいつぶりだろう、、いや、初めてかもしれない瑞はそんなことを考えながら優しく微笑みかけながらもう一度言った「よろしくね蒼!」 

 

 幸せな時ほど儚く散るものだ、昔の偉人が言った言葉だっただろうか、、やはり彼らにもそれは訪れた。あまりに残酷で過酷な運命が儚い彼らの関係を、、儚い彼らの恋心を邪魔をするのだ。やはり、人魚を監禁するのは問題になったのだ。オーナーに大勢の人が詰めかけて「人魚に自由を!!」と、口を揃えて言っていた。もちろん瑞も彼女の自由を願っている。しかし、お別れするには、彼らは同じ時を過ごしすぎていた。しかし、優しすぎる彼に、そんなわがままを言う選択肢はない、涙を呑んで彼はこう言った「おめでとう!これで本当の自由だね!君にはこんな狭い水槽じゃなく広くてステキな世界が似合ってるよ!」蒼はその言葉を聞いて一筋の涙を流しながら言った「そんな自由いらない!どれだけ狭くて苦しい水槽でもあなたがいるだけ、ただそれだけが、私の世界に色をつけてこの水槽を広大で尊いものにしてくれる。好きだよ、瑞、、あなたより大切なものはもはやこの狭い水槽の中にも広い世界の中にもないわ、」その言葉を聞いた瞬間2人は全力で泣いた、この時だけは世界は2人のために回って欲しいとそう思う、それほど美しく儚い涙だった。

 瑞17歳 蒼9歳

 瑞は、いつものようににっこり微笑んでいつもより特別な買い物をしていた。蒼と始めて会って七年、蒼と再会して一年の特別な日だ。そうだ、少し恥ずかしいけど手紙も一緒に渡そう!そう思い筆をとった。

  

 手紙はその人の人生を表す。昔どこかで聞いたことがある。瑞はどんな人生を蒼に贈るのだろうか。

 拝啓蒼へ

                 終わり 

 

 

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