珍問珍答シリーズ その13 宮本輝の「蛍川」について
宮本輝の「流転の海」が完結しました。30年近く前、その最初の部分にあたる「蛍川」が、すでに高校の国語の教科書に載っておりました。そのヒロイン英子に、何十万という蛍がまとわりつく場面を、小説のように描いてみよう、という問題を出した時の解答例をいくつか紹介します。
まっくらな中、コンサートのクライマックスに、スポットライトをあびているように、蛍の光が、英子をつつんでいた。
うす緑色をしたウェディングドレスのような、天空に舞うはごろものような、ふんわりとしたものが英子を覆って、…………
英子の姿が、まるで、青白いドレスを着ている、お姫様のように見えた。
「竜夫ちゃん、青白いタキシードを着た王子様みたいで、かっこいいよ」と英子が言った。
二人は、今、ここで、小さな小さな結婚式をあげたような気分になった。…………
蛍は英子にまとわりついた。まるで、蛍が英子を食っているようだった。蛍は、英子から、養分を吸い取っているように見えた。
竜夫と英子のまわりに、何十万という蛍が飛びかう。蛍の光が、いっせいに、ついたり、消えたりする。
「竜ちゃん、大阪に行くんか」と英子がたずねる。
竜夫は、だまってうなずいた。
「竜ちゃん、むこうに行っても、元気でな」
英子の目から涙がこぼれた。
英子をつつんだ蛍もまた、竜夫に別れをおしむように…………
英子が、まるで、星空に浮かんでいるかのように、……………
英子は、子供たち(星たち)をときはなそうとしている聖母のようだった。
生徒たちにとって、蛍は、わりに、身近な存在です。この珍問珍答シリーズ その4の「日記」の中にも、そういう雰囲気は出ていると思います。
同僚も、何十万という蛍が、柱のようにかたまって、一斉に明滅しているのを見て、えらく感動したことがあると話しておりました。そういう生活環境のすぐ近くで、暮らしている生徒たちもいたのです。