第二十四話・三下役者たちへの芝居3
更新時間を変えようと考え中です。
騎士に囚われたままの男は青褪めた顔で
「対象を間違えたばかりか、その対象すら間違いで、その上、主神様の寵児たる方に迷惑を……俺はいったい」
と呟く。
「やらかし君、本領発揮?」
おい、こら、親友、笑わせんな。
騎士さん達も吹き出さないように肩を震わせてんじゃないか。
「ぐわはっはっはっ!!」
老騎士さん、もう少し抑えてやった方がいいと思います。
「ダメですよ、アイリス。そういうのは遠回しに言わないと」
マーシャ、それはフォローになってない。
うわぁ、もうツッコミ人員が足りなさすぎる。
「ごめんなさい。追手さん。アイリスさんには他の人のスキルを揶揄しないように言っておきます」
唯一の良心・エリシア先生がアイリスに代わり謝るが男の心は既に致死量のダメージが与えられている。
ちなみに彼の名前をエリシアさんは知っているそうだが、ここでは名乗りを上げてないので『追手さん』呼びになっている。
「でも、エリシア先生の下着、ばら撒いたので制裁は必要だと思います」
そういえば、こいつ女の敵だっけ。
エリシアさんは親友の言葉に頬を染めたが、拳を握り気を入れ直した。
「追手さんは私と同じ鞄を持つ方を追っていたのでしょう。誘拐された子供を探すにしては乱暴でしたが、職務を遂行されての事なのです。
それに、下着は散らばってません。そうですよね」
エリシアさんは必至の視線でその場にいた人に同意を求める。どうやら、下着の散乱自体を無きものとする腹らしい。
騎士達・追手達は少し視線を中空に彷徨わせてから、
「「「「そうですね」」」」
と口を揃えて肯定した。
「それにしても、エリシア嬢の言う通り、誘拐された令嬢を探すにしては乱暴だったのう」
老騎士が言うと、追手は気まずそうにする。
しかし答えない訳にもいかないので、渋々口を開く。
「実は上から、令嬢はすでにその神官の失敗で死んでいる、と言われたんです。だから鞄の中に入ってるのは死体で、それを糾弾するために捕まえて欲しいと」
あまりに酷い話しにエリシアさんがよろめく。その肩をマーシャがそっと支える。
親友は私にしか見えない位置でぎりりと歯軋りした。
「どうして死んでるなどとその方は思ったのでしょうか?」
マーシャが硬い声で問いかけると、追手は困惑した顔で「ここだけの話しにして欲しいんですが」とその家から神官さんが逃げた時の状況と、家のゴミ箱に入った髪の毛、神官を呼び出した少女の様子などを説明した。
「何も知らない子供のイタズラで死んだとしたら事を大きくしない方がいいんじゃないかと。
俺らもその方がいいかもしれないと思いまして」
その話に騎士達も難しい表情をした。
「あの、主神様にその女の子がどうなってるのか、訊いてみましょうか?」
私が申し出ると、役者以外の全員が期待の視線を向けてきた。
「その方のお名前は?」
「『アリエラ・ブリメイラ』だ」
速攻で返ってきた名前。主神は少しの沈黙(?)の後、
『すでに目を覚してるね。自分の意思で行動してるみたい』
と返してきた。
この文字で判るのは『生きている』『起きている』『行動している』だけだ。場所も行き先も示していない。
「どこにいますか?」
『それは自分で探しなよ。その子は転生者だから転生神の管理下にあるから、そっちに訊いたら?なんでも神様頼みで教えてあげる義理はないでしょ』
突き放した主神の言葉に追手さんは「すみませんでした」と謝ってきた。
そうこうしている内に馬の蹄の音が近付いてきた。
そちらに視線を向けるとカンテラを持った当家に仕える騎士がいた。
「私はパージェンシー公爵家の警備を司る者だ。先触れとしての行動している。ここでいったい何をしている!」
張り上げられた声にマーシャがその男の前に歩み出て丁寧に礼をした。
「いつもお疲れ様です。ラレック様。アレキサンドラ様をお連れしていたのですが、どうやら伯爵令嬢の誘拐?家出?に巻き込まれたようです」
マーシャの顔を確認した彼は馬上から降り、周りを見回して私を見つける。そのまま一定の歩調で私の前に跪いた。
「おひさしぶりでございます。アレキサンドラ様。もうすぐ、公爵様たちもお見えになられます」
「わかりました。アレクお兄様も?」
安堵の表情を造り、騎士に問いかける。
「アレキサンドル様は目覚められたばかりですので、医者の許可がおりませんでした。
お屋敷でお待ちです」
「わかりましたわ」
自分の女言葉に背筋をむず痒くがさせながら、私は芝居を続けた。




