第十九話・家族で夕食を
「帝国の第一皇子が転生者だとは聞いていません」
「赤子の頃からの転生だと鑑定で分からない場合があります」
「でも、その場合、赤ん坊らしくない行動で転生者として判明する可能性が」
大人たちが喧々諤々で話をしている。
歩夢兄ぃが帝国のそれも皇太子に転生……それって、帝国、今の体制保持不可能だろ。自分の立場を瓦解させる体制など、あの人がそのままにしておくはずがない。
それに転生するなら……私みたいに五歳などという生ぬるいことをせずに赤ん坊から始めるはずだ。
その上で回りに気づかれないように完璧に赤ん坊を演じ切るはず。ラノベとかによくある、突出しすぎる主人公的なことも絶対にしない。しかし、普通に成長する過程でこのぐらいなら突出するという形で徐々に周りに力を見せつけるぐらいの事はする。
その上、裏社会から帝国を変える布石を打っているはずだ。
よくよく考えるといやな五歳児だな。
「皆様、旦那様がお帰りになられます」
先触れからの言葉に、彼らはぴたりと会議をやめて、玄関ホールへと向かう。私たち子供3人もそれに倣う。
私達が玄関に辿り着くのと同じタイミングで、父上が勢いよく扉を開け放った。
現れたのはゲームのパッケージにいた『サフィール』をロマンスグレーに進化させた感じであろうか。
「おかえりなさいませ、旦那様」
母上が、甘々な声で父上を迎え、熱烈なハグをした。
「さぁ、私の王女様。目覚めた息子に俺を紹介してくれないかい?」
父上の申し出に、母上は渋々抱きしめていた片腕のみを離した。
「まずはアレキサンドルでありアレキサンドラになる予定で準備を進めているわたくし達の可愛い長男は、無事に魂が融合したみたい。
前世は享年17歳の童貞な男子高生でパメラとは知り合い。同じ事故で死んだんですって」
ちょい待て、紹介の初っぱなで不穏当な計画の爆弾落としてないか?
声をあげようとしたところで、父上がさっと近づいてきて、サフィールともども抱っこされた。
「その事について話がある。夕食をとりながら話をしよう」
一気に高くなった視界に、弟と私は目を白黒させながら頷いた。
夕食をとる部屋へ、私とサフィールは父上に抱き上げられた状態で、パメラは母上に抱っこされ移動した。
両親はそれぞれの椅子に私たちを下ろすと自分たちの席に腰を下ろし、食事前のお祈りをする。
郷に入れば郷に従え私はサフィールと父上の動きをトレースした。
食事が開始され一番に口を開いたのは母上だった。
「旦那様、とうとうこの国が『乙女ゲーム』の舞台になるそうですわよ」
父上はその言葉に「そうか」と返すと、私に視線を向けた。
「それはアレクからの情報かい?」
私はその問いに首を横に振り、母上に食事の際のマナーを学んでいるパメラに視線を移す。
「あ、いえ。私は前世も男でしたので、やっていません。親友にその内容を聞いた程度です。どちらかといえば、パメラの方が詳しいです。パメラは私の親友と一緒にゲームをしていたので」
私は取り敢えず、前世で身につけたフルコースの際のマナー通りに食事を進める。料理はバリエーションに富んでいる。また全体的に私の分の料理が少なめになっているのが、有難い。
「サフィール、本当に嫌な思いをさせたね。陛下からの依頼とは言え、お前に親子の縁を疑われるのは辛かったよ」
あー、なるほど。両親は命令でサフィールにあんなのをつけたのか。
「俺と俺の宝石が、愛し合ってお前が生まれた。宝石が産んでくれた宝石達。だから、名前に宝石の名称をつけたんだ」
アレキサンドライト・サファイア・真珠………なるほど、たしかに宝石だ。
「もう、絶対に疑いません」
サフィールは固い決意を見せてくれる。その宣言に、父上は眼を挟めて笑った。
「それで、ゲームをやっていた親友はお前の彼女だったとか?」
「ありえませんね」
親友は、親友です。第一、『アレ』は私の好みではない。
きっぱり否定する私に父上は臆してそれ以上揶揄ってこなかった。
恙無く食事は終わり、リビングに移動する。其処には食後に摘むのに良いぐらいのプチフルールや、飲み物が用意されていた。
「さて、食事も終わったから、ブライアンの報告を聞こうか」
父上の言葉に執事は礼をしたあと、資料を父上に手渡す。
「ブリメイラ伯には妾である子爵令嬢との間に5歳の女の子と3歳の男の子の2人の子供が居ます。更に、子爵家の遠縁から娘と同じ髪と瞳の色を持つ子供を養子にしています。
あと、転生神殿神官の話では娘は魂魄稀薄者であり、介護神官を派遣しているそうです」
その報告に父上の眼光が鋭くなった。