序章2 私と友人の結末
「っていうわけで、このゲームの第二王子嫌いなんだけど、姉を陥れられ殺された弟×それを画策した第二王子という形の凌●調教ならかけると思うのよね」
前世の友人は腐っていた。腐敗率は120%に達するぐらいに腐っていた。
「なぜ、それを男である私に言う。そして私にその小説を読ませようとするっ!」
「いいじゃん、しんゆー」
見た目だけなら清楚でかわいい部類に入るのに中身は凌辱物・多数×個人などを描く腐の小説家、残念女子高生である及川愛理。
見た目だけなら不本意ではあるが美女、払拭するために空手・合気道・剣道・弓道を極めた男子高生たる私、大野木晶。
ちなみに自分の一人称が『私』になったのは合気道と弓道の先生の指導によるものだ。あと、柔道をやっていないのは親友と家族全員に「それだけはやめてください」と懇願されたから。それも全員で土下座までしてお願いされたときには、そんなに柔道はいやか?と疑問に思ったくらいだ。
その彼女がはまっていたのが『ラブリックメモリア学園~宝石の国の王子と騎士~』(通称ラブメモ)という恥ずかしいタイトルの乙女ゲームだった。
「でも、第二王子はメインの攻略対象なんじゃないか?なんでそこまで毛嫌いする」
パッケージをそのまま学校にもってくる愛理の心理がしれない。
ちなみに件の第二王子はパッケージの中心で高飛車な視線をこちらに向けている。
「ああ、それはね」
愛理は私の手からゲームのパッケージを受け取ると、箱の中から説明書を取り出して特定のページを開いた。
「彼女が第二王子の婚約者で普通のゲームなら悪役令嬢の立場になるアレキサンドラ。
でもこの人、ほかのライバルたちと違って嫌がらせとか、泣き落としとかあんまりしてこないし、主人公への注意も的を得ている……っていうかアドバイスじゃね?と思う内容だから嫌いになれないの」
そこには少し胸が寂しいが、そこそこのナイスバディにきれいな顔立ちをした女性のイラストがあった。
「おい、これって……」
イラストの顔立ちが自分に似ていなければ、「美人だな」で済ませたかもしれない。
「しんゆーにそっくりな令嬢を新しい恋人ができたってだけで婚約破棄して、適当な罪で投獄・国外追放ならまだしも処刑までするような王子、好きになれない」
どうやら屑王子ルートという、主人公ハーレムエンドだけど攻略対象者の中で弟が一番好感度が高い場合に出てくる特殊ルートがあるらしい。
その話の中で実は公爵令嬢の仕業とされていた彼女への嫌がらせは、第二王子が主人公と付き合うためのマッチポンプ的な自作自演で、それを理解した弟はハーレムエンドなのに主人公とともに応急を抜けるらしい。そして数年後には公爵家や不満が噴出してきた貴族たちとともに王宮を牛耳っている第二王子とその一派に対して革命の狼煙を上げるのだそうだ。
主人公は王宮が革命軍に占領されるのをすべてが見下ろせる崖の上で見ながら、「貴族としてのたしなみを教えてくださったあの方が死んだのは私のせい」とつぶやき、自ら命を絶つという何とも救われないルートである。
「うちの兄貴なんてさぁ、アレキサンドラ押しになっててこのルートで王城を攻め落とす戦略ミニゲームの際にはめっちゃ協力してくれた。あ、ちなみにわたしの一押しはアレキサンドラの弟のサフィール君だよ」
愛理の兄・歩夢は初恋が私だというほどに私の顔を好いている。ただ愛理と違い腐には染まっていないため、現在私と同じ顔の女性を探している状態だ。ちなみに『あっきぃが将来結婚をして、嫁が娘を産んだら、娘さんを俺のお嫁さんに下さい』という寝ぼけたことを抜かしたので合気道の技で投げた上に、空手で鍛えた足技で蹴り上げ、竹刀でタコ殴りにしたのだが『なんというご褒美』と身もだえたため気色悪くなり、矢で射殺すのはやめた。
「とりあえず、スチルは全部集めたし、隠しルートや隠し攻略もすべてクリアしてるから、しんゆーもプレイしてみる?」
「男である私に乙女げーをやれというのはどういう罰ゲームだ?」
パッケージごと渡してくる愛理に、拒絶をもって押し付け返す。「ちぇー」とか可愛い子ぶっていっているが知らん。自分の鞄に机の中のものをざっと入れ、立ち上がった。
「ほれ、帰るぞ」
「おうよ」
すでに帰る準備をしていた愛理も立ち上がる。
こうして一緒に帰っているせいか、私と愛理がつきあったいると勘違いしている人もいるが、「わたし百合じゃないからないない」という不穏当な彼女の否定と、「私と自分の兄の薄い本を出そうとする女に惚れろと?」という私の的確な否定で、噂自体は駆逐されている。ちなみに彼女が出そうとした本は、私の真剣な怒りに触れたため、愛理自身が自粛した。その後歩夢が小説のデータを貰っていたことが判明した時はメモリスティックごとデータを粉砕をしてやった。
校門を抜け、大通りに出る。信号は赤。複数の人間が横断歩道まで待っていた。
見知った顔もいる。いつもの風景。時間を急いでいるサラリーマンが腕時計に視線を落とした。
私も携帯メールの着信音がしたために視線を携帯の画面に落とした。
キキキキキキキキッ
突如として響くブレーキ音。顔を上げると対向車線のほうから速度を落とさない大型バスがこちらに向かって突進してきていた。
私はとっさに横にいる愛理を突飛ばした。しかし、突き飛ばした先も人垣の中で思ったよりも遠くまで行かない。
彼女の驚きの顔。悲鳴。真っ赤な視界。それが最期の記憶。