第十四話・乙女ゲームとの相違3
第二王子が、国王の子供じゃない??そんなこと有り得るのか?
「この世界にはDNA鑑定のような血の繋がりを見極める魔法でもあるんですか?」
思わず出た私の問いにカーチェが「ございます」と答えた。
「特殊なスキルの『他者鑑定』や『鑑定♾」などで行えます。しかし『他者鑑定』の場合、鑑定の際に其の者に触れなければなりません。『鑑定♾』も同じ部屋にいるぐらいに近づかなければ観る事は叶いませんし、読み解くのに慣れてなければ時間がかかります」
それはなかなか運用が難しいスキルだ。
「奥様の命により忍び込み解読した時にはハラハラドキドキしたものです」
….…結局、あんたかいっ!!
この侍女頭がいったい何者なのか、本気で知りたくなってきた。
「読み取ってきた中に『第二王子(疑)』とあり、説明文に『第二王妃が国王に媚薬を盛ってことに及び出来たとされている。しかし、陛下に逃げられた為、当初の予定どおり陛下と髪と瞳の色が同じであるワグレット侯爵として、出来た子供』となっていました」
説明文が細かすぎると思うのは私だけなのかな。
内容的に、物語の後半で『実は』みたいに解明される事実に思える。
そういえば、先程母上、さっき『ワグレット侯爵』に『裏切り者』って枕言葉つけてた。このことが原因なのかもしれない。
「ゆえに王国の王子は正妃エリザベス・オーガスタ様の御子であらせられるエドアルド殿下とクリスティーネ殿下のみとなります」
母上の話では正妃とその御子は第二王妃が嫁いできた後、国王の命により不特定多数が出入りするではなく離宮に居を移された。どうやら、何度か刺客が送られたり、毒が盛られたことがあったらしい。
娘を溺愛していた公爵は実家に戻す事を提案したようだが国王はそれだけは許さず、正妃が「それでも陛下のそばに居たいのです」と公爵を説得し、今の状態になったそうだ。
「それを捻じ曲げてあの第二王妃は寵愛がなくなったからとか、尊い皇族を入れたのだから当然の対応とか、下賤な者が居なくなって清々するとか、腹立たしい事この上ない」
母上の怒りが怖いです。
なんとか宥めようとした時にパメラが小さく「あ」と声を上げた。どうかしたのかと視線を向けると彼女は茫然としながら
「そういえば、ゲームの中の正妃さまは王宮の中で毒殺されたんだった……」
バキッ!
大きな音に驚き見上げると母上の持っていた扇がばっきりと折れていた。
「それは王宮のどこで、かしら?」
強張った声で尋ねる母上にパメラはぽやっとした表情で答える。
「王宮の本宮です。ゲーム内で第二王妃が『あの女が同じ建物の中にいるのが許せなかった』って言ってたし、第一王子が『俺たちが離宮に避難した時に母上も一緒に来られてたら、守れたのに』と悔やまれていたのを覚えています。
だからこの世界では無事に離宮に避難されたのだなと思ったのです」
なるほど、パメラは母上達の会話で正妃様の『死亡ルート』が回避された事を理解したのか。
大人達もほっと息を吐いた。母上は無惨にも砕けた扇をカーチェに渡し、新しい物を受け取る……って、いくつ替えの扇を用意してあるんだ?
「パメラの言葉を聞いたら、オーガスタ公爵夫人が喜ぶわね」
「かの方が正妃様の離宮への転居を勧められましたから」
母上と執事の安堵する会話が正妃への敬意を示していた。
「それでもある程度は警戒は必要ですわね。
カーチェ、王宮とお父様の所にいる草で離宮に回せそうな人材はいるかしら?出来るだけ優秀なのがいいのですけど」
「奥様の豚から犬になり、草に仕立て上げた者と貴族の庶子で赤ん坊の頃から手塩にかけて育てた者が前王弟殿下におります。
前王弟殿下の周りが弱くなりますが、彼の方はご自分が歩く兵器なので大丈夫でしょう。
王宮の草は見張りの為にも減らすのは下策かと」
忍者だ!異世界に忍者がいた!!
自分でも興奮しているとわかる視線を感じたカーチェが小さく笑った。
「アレキサンドル様も我ら『影の軍団』に入られますか?」
服部半蔵だ!!伊賀忍者だ!!私は思わず大きく頷いた。
「それはいいわね、アレキサンドルはカーチェから忍術を学び、サフィールはアレキサンドルから武道を学ぶ。パメラは……どうしますか?」
普通の令嬢は普通、武術も武道も修めない。あとおそらくステータス的に彼女は攻撃力が低いのだろう。
そのことを踏まえ、母上はどうするべきかをパメラに訊ねた。
「アレク兄様、合気道習ってましたよね?それを教えていただけませんか?」
たしかに合気道は守りの武道である。恐らく必要な能力は『防御力』。前世のあの理不尽な状況を耐え忍んでいた彼女ならそれは高い可能性がある。
「ああ、大丈夫だ」
了承をした私に、母上は何かを思いついたように笑った。
本当の国王とオーガスタ公爵との会話
老公爵「わしの可愛いエリザベスに毒が盛られただと!これだから王家に嫁がせるのは反対だったんじゃ!!エリザベスは公爵家に連れて帰る」
国王「ふざけんな、ジジイ!エリーは俺の嫁だ!王宮にいるのが当たり前なんだ!!」
公爵夫人「あらあら、嫁も守れない国王が大きくでたこと。あの毒婦をどうにかできない無能は黙ってなさい!」
国王「あぐっ!」
老公爵「!!わしの女神は道理がわかっておる」
公爵夫人「かと言って王宮自体から連れ出すのは愚の骨頂。娘可愛さに愚かしい真似をするようなら離縁しますわよ」
老公爵「!!」
公爵夫人「エリザベスはどうしたいの?」
正妃「私は陛下のお側を離れたくない。でも本宮が危険なのもわかります。だから子供達と共に離宮に行きたいです」
公爵夫人「一番の安全作ね。これで決定、よろしいかしら?」
国王・老公爵「「反論ありません」」